業績が順調な時こそ一段高い品質への認識を
【役員インタビューシリーズ】
インタビューイ:タキゲン製造株式会社 品質保証部 取締役 品質保証部長 武藤 憲一
クレームは「処理」から「出さない」へ全員が品質保証への意識を変えるその本気さが製品に表れる
「いい製品をつくり込んでいくための要になる部署が、品質保証部です」と語る武藤部長。まずは、社員の意識改革に取り組み、「品質保証とは何ぞや」と社内外に落とし込む努力を惜しまない。「そこが苦労です」という視線の先に、品質向上への明日を見据える。
クレームを出さないための1つ1つの管理の集合体
武藤部長と品質保証部との関わりは。
武藤 もともと品質保証部という部署はなく、開発の設計部隊の中にそういうチームがありました。そのうち営業サイドから、品質保証の専門部署をどうしてもつくってほしいという要望がでて、2007年頃から試行錯誤し、正式な品質保証部ができたのは2010年頃でした。部署が設立し、その1年後には私が担当し、現在に至っています。
実際に品質保証に関する仕事に就く前と後では、品質保証に関する考え方が変わりましたか。
武藤 タキゲン製造自体が生産設備を持たないファブレスメーカーで、品質保証部もなかったため、モノづくりに関してみんなまだ疎いところがありました。事実、私も「クレームが出たら処理するのが品質保証」くらいの感覚でいました。実際にクレームが出て、お客さんの品証のプロと一緒に仕事をし、いろいろと教わることがありました。
まず、当社の図面と工場の図面が一致しているか、できた部品類がその図面と整合性があるか、材料は間違いないかなど、1つ1つの管理の集合体が品質管理だということです。単なるクレーム処理だけではなく、クレームを出さないように各工程を管理するのです。製品ができて、売りに出すものがいい品質のものでなくてはいけない。それをつくり込む部署が品質保証部なのだと実感したように思います。
そのために部署内で改善されたことは。
武藤 まず、チーム分けをしました。クレームを処理するチーム、製品を管理する監査チームです。クレームのないものでも工場に赴いて、図面から部品までの管理をトレースする仕事を追加してやっています。それに環境負荷物質を管理するチームがあります。これはRoHS指令というカドミウムや水銀、鉛などの環境負荷物質の規制で、製品にそういうものを含有させないための管理です。
機能としては三本柱みたいな形ですね。
武藤 はい。もう1つ鍵管理を担当している者がいます。
鍵管理?
武藤 「お客様専用番号(止め番)」というのですが、ある会社さんにしか出さないという鍵ナンバーがよそに流れ出てしまわないように鍵の管理をします。「防犯」と「安全」の2面的に機能します。時代の流れとともにニーズも高まっています。
品質保証部はタキゲン製造の中でどのような位置付けになりますか?
武藤 まだ歴史の浅い部署なので、私もそうだったように、社内の人間も品質保証部は何をするところなのか、まだまだ認識が足りないですね。うちが販売している製品が、「品質は大丈夫ですよ」と認定をする部署であり、いい製品をつくり込んでいくための「要になる部署」です。全員がこう理解した上でこちらの指示に沿って活動してほしいです。
業績が順調な時こそ一段高い品質への認識を
社員全員が品質保証の認識を深めていくために、努力していることはありますか?
武藤 毎月の経営会議、また、現在半年に2回ほど開く品質会議、さらに開発・品証のリーダー会議などの機会を利用して、いつも品質保証とは何ぞやという話をしています。またISOでの内部監査の機会があり、言ったことが確実に実施・実行できているか、繰り返し話し、チェックするようにしています。 タキゲンの歴史をみると、品質保証部がなかったときも売り上げは順調に伸びていました。すると品質保証の必然性に対する意識を持つことは、なかなかピンと来ない部分もあるようです。その辺のギャップがあるからこそ、もう一段高い品質についての意識に変えられるか難しいところだと思いますね。
品証をやってよかったと思えるのは、自分が気付いたことをみんなに伝え切って、その結果クレームの件数が減る、その時かなと。
タキゲンが鏡になる心の問題、本気度
新年の賀詞交歓会のあいさつで瀧源愛子社長が、協力工場の皆様に「どうすれば品質向上させることができるのか、今後も考えてください」と品質保証に関する「愛情を込めた製品創り」の話をしていました。協力工場には、どのような働き掛けをしていますか。
武藤 監査という形で工場さんには入り込んでいます。私たちの仕事は部品を集めて組み立てるため、どうしても人の手が必要です。そんな時に「あれやれ、これやれ」と頭ごなしに指示すると1回2回はできても、わけが分からないでやらされるので一過性で終わってしまいます。
まずは協力工場さんの日々の努力やご苦労を理解し、感謝した上で、「こういう問題があります」と問題を確実に共有してもらい、「あなたのところは何が得意ですか」「こういうことはできますか、できませんか」と事細かに話しを重ねていくのです。いたずらに工数を増やすことではなく、しっかりと納得した上でやってもらいたいのです。社長が言いたかったのもそこで、心の問題だと思うのです。人の心を動かすには根気が必要です。それを言い続けられる人間を社内にも増やしていかなければいけません。
よく「協力工場さんが悪い」と言いがちですが、私は「違うよ」と返します。「タキゲンの心がそのまま協力工場さんの鏡となるんだよ」と。私たちが、ただ「これやって」と言いっぱなしで別に興味を持たなければ、協力工場の人も「何だ、タキゲンは興味ないじゃないか」となり、それが製品に形となって表れてくるのです。「材料は大丈夫?」「部品は大丈夫?」と人任せにせず一言聞くことが大切です。
タキゲン社員はみな、仕事の話をするときは、品質のことも意識しているという姿勢ですね。
武藤 協力工場さんも、「タキゲンは本気なんだ」って思いますよね。どれだけこちらが本気になれるかに懸かっています。
まさに品質保証部の一番肝の部分の話ですね。
武藤 営業の人は若い人が多い。やはり若い営業マンがタキゲン製品に誇りを持って、少なくとも製品をいいものだと思って安心して売っている。それがある日クレームになって苦労をすると、やはり気の毒ですよ。我々としては、営業マンが自信を持ち胸を張ってお客様に届けられる製品をつくり上げなければなりません。そこは何としても成し遂げたいです。将来的には、酸いも甘いも経験した人材が私の後を継いでくれるといいですね。品質保証の大切さを今から伝えていければと思っています。
自分の夢は、品証をやって自分が気付いたことをみんなに伝え切る。その結果、クレームの件数が減ること。品質をきちんと向上させて、クレームを減らすことが今の私の使命ですが、そこからみんながプライドを持って仕事ができる環境が生まれてくるといいですね。
【役員インタビューシリーズ】
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