
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
深刻化するスペースデブリ 人類は宇宙までゴミだらけにしてしまった
過去60年ほどで5,700個以上の人工衛星が打ち上げられた
ここ数年、宇宙をテーマにした優れた映画が公開されました。今年のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞した『インターステラー』(監督:クリストファー・ノーラン)は、相対性理論を背景にした空間移動や時間の流れが印象的でした。そして昨年の同賞で監督賞など7部門のオスカーを受賞した『ゼロ・グラビティ』(監督:アルフォンソ・キュアロン)では、人工衛星の破片がスペース・シャトルに衝突する怖さが描かれました。じつは、これは単なる空想ではなく、地球の周回軌道上で現実に起きうる問題になっています。
人類が初めて宇宙に人工物を打ち上げたのは1957年のスプートニク1号で、以後の約60年の間にアメリカとロシアを中心に5,700個以上の人工衛星が打ち上げられています。日本も気象衛星などを120個ほど打ち上げました。
それらの打ち上げに使われたロケットの本体や、古くなって使用中止になった人工衛星は地球の周回軌道に放置されたままになります。するとロケットと衛星、また衛星同士が衝突して破壊され、無数の破片となって軌道上に飛散します。これらはデブリ(ゴミ)とかスペースデブリと呼ばれます。
その数は驚異的で、JAXA(宇宙航空研究開発機構)によると、10cm以上のものが約2万個、1cm以上なら50~70万個、さらに1mm以上だと1億個を超えると推定され、なんと秒速7~8kmの猛スピード(ピストルの弾の10倍以上の速さ)で周回軌道を回りつづけています。その破壊力は凄まじく、実験では10cm以下のデブリでも人工衛星を爆発させるだけの威力をもつことが確認されています。
「動脈」の活動ばかり優先するのを改める時にきている
旧ソ連のスプートニク計画やアメリカのアポロ計画が始まった頃、おそらく誰もスペースデブリの問題など意識しなかったでしょう。宇宙は、まさに無限のスペースで、そこにロケットや人工衛星を打ち上げても、そのゴミなど大したことはない……と。
この構図は環境問題に共通のものです。地球はあまりにも巨大な存在だから、人間の活動が影響を与えるなどとは誰も真剣に考えなかった。そして、20世紀の後半に海洋汚染や森林破壊、酸性雨、オゾン層の破壊、そして地球温暖化の問題が現れ、ようやく人類は自分たちの活動がすでに地球を破壊できるまでに巨大化していることに気づくのです。
スペースデブリも同じです。宇宙開発の名のもと人工物を何千回も打ち上げているうち、無限だと思っていたスペースがゴミだらけになっていた……。そのゴミは人工衛星や宇宙ステーションを脅かすまでになり、しかも具体的な処理方法はいまだにありません。
いま私たちの生活は、地上数千キロに打ち上げられた人工衛星に多く依存しています。毎日の天気の情報、台風やハリケーンの動きは気象衛星から送られてきます。テレビ番組にも衛星放送が多くなっています。そして車のナヴィゲーションなどGPSも人工衛星からのデータを処理することで成り立っています。スペースデブリによって、これらの人工衛星がすぐに破壊されるわけではありませんが、その危険性を否定することもできません。
スペースデブリは私たちに一つの教訓を与えています。それは、「静脈」のことを考えず、「動脈」の活動にばかり一所懸命になるという思考パターンから、そろそろ人類は脱する必要がある、ということではないでしょうか。
宇宙船にも墓場がある?
人工衛星や宇宙船の眠る場所とは
スペースデブリの発生を防ぐため、役割を終えた人工衛星をより高度の高い軌道へと移動させることがあり、そこを「墓場軌道」と呼ぶ。また宇宙船などは定期的にニュージーランド南東3,900kmの南太平洋(周辺に人の住む島がない)に落下させられてきたが、その海域は「スペースクラフト・セメタリー」(宇宙機の墓場)と呼ばれている。