情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。

すでに世界は多様性の時代へ 違いを認め、尊重する寛容の精神がポイント

多様性

渋谷区やアイルランドの決断は多様性を認める姿勢の反映

多様性、あるいはダイバーシティ(diversity)という言葉がビジネスの分野でも頻繁に聞かれるようになってきました。もともとは、さまざまな種の野生生物が生きる自然環境を守ろうという時に、多様性という表現が使われていました。しかし、異質なものが数多く「共存」するのは人間社会でも大切なキーワードだと気づき、社会づくりから文化、ビジネスなど多くの分野で多様性を認めよう、守ろうという動きが盛んになってきました。

とはいえ、「多様性を守る」というのも、これまた“言うは易く、行なうは難い”テーマです。人間は本来が保守的な生き物ですから、自分たちと異質なものは排除しようとします。それは歴史を振りかえれば分かります。人類の歴史は人種や民族、宗教、そして近代以降は政治体制などの面で、自分たちと異質なものを退けようとする戦いの連続です。

また多様性を守るとは、寛容さの問題でもあります。互いの違いを認め、尊重するという姿勢です。それを自分たちが暮らしている地域や社会、組織の中で実現できるかどうか。言葉にすると当然のように聞こえますが、現実の社会ではまだまだ難しいのです。

具体的な例を挙げると今年3月、渋谷区が日本で初めて同性カップルを結婚に相当する関係と認め、「パートナー」として証明書を発行する条例を可決しました。つまり性的な少数者の権利を認めたわけです。またアイルランドでは、同性婚を認めるか否かで憲法改正の賛否を問う国民投票がおこなわれ、賛成が62%を占めました。これらは自分が異性愛であっても、他人が同性愛であることを認める、そして社会の中で共存していこうという意識、姿勢の典型的な例です。多様性を守るとは、こうしたことを積み重ねることです。

違うことと善悪は別。「みんなちがって みんないい」

 違うことと善悪は別。 「みんなちがって みんないい」異民族、異文化が陸つづきで接しているヨーロッパなどと違い、日本は島国で、しかも多民族国家にはほど遠く、同じ言葉、似たような文化、生活習慣で暮らしています。おまけに長く農耕民族として共同作業をして生き、和を尊ぶ精神も教えられてきました。そのためでしょう、実は日本人はまだまだ多様性というのが苦手です。

会議をすれば「満場一致」を好みます。多少の意見の違いはあっても、最後は和を尊ぶわけです。横綱審議会で新しく横綱、大関が誕生する時も、芥川賞や直木賞で新作家が登場する時も、「満場一致」が好まれます。作家や評論家が対談をおこなうと、最後はきちんと折り合いをつけて意見をまとめる傾向がありますが、これも日本人的な傾向です。

多様性が苦手という傾向は、ビジネスの世界にもあります。日本企業が海外に進出した場合、現地採用の外国人にも日本的な考え方を求める、つまり同化させようとする傾向があることはたびたび指摘されます。ときに「ガラパゴス的」と批判される背景には、実はこうした“多様性が苦手”という精神構造があるのではないでしょうか。

ビジネスでも、人種や国籍、性別、年齢、文化、趣味などの違いを問わず、能力のある多様な人材を活用することで、ビジネス環境の変化に柔軟、迅速に対応できるはずです。そして、徐々に日本の社会、企業でもそれが進んでいることも確かです。

童謡詩人・金子みすゞは『私と小鳥と鈴と』に書きました。「みんなちがって みんないい」。違うことと善悪は別。みんな違うけれど、みんな良いものを持っている。それを積極的に認めていこうとする姿勢が、多様性を豊かにするのではないでしょうか。