情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。

いま話題の r>g って何だろう? 富の格差はますます拡大するというけれど

ゴールド

世界資産の13%をわずか0.004%の人たちで独占している

経済やビジネス関係の情報に関心が薄い人でも、トマ・ピケティ(Thomas Piketty)という名前と著書『21世紀の資本』くらいは聞いたことがあると思います。フランスの経済学者であるピケティ氏は、いまや世界的に有名な学者であり、書店に行けば彼の理論の解説書や関連書が平積みになり、多くの雑誌が特集を組んでピケティ理論の紹介をしています。その結果、彼の理論の象徴のようになったr>gは、大袈裟に言えばアインシュタインのE=mc²に匹敵するほど有名な公式になってしまいました。

ピケティ氏が説いているのは、世界の主要国の過去200年以上の税務データを調べると、資本主義のもと富の偏在、寡占が進んでいる。そして、長期的に見れば、r(資本収益率)がg(経済成長率)より大きいため、すでに資産を持っている豊かな層はより豊かになり、資産を持たない人びととの格差が一層拡大する、というものです。

本当にそうでしょうか。超大金持ちが存在するのは昔も今も同じで、スイスの某銀行の調査では、世界の総資産の13%に相当する30兆ドル(約3,600兆円)は、世界の成人人口のわずか0.004%(10万人に4人の割合)によって保有されているそうです。

また、やはりスイスの銀行が発表した、一国の所得上位10%の富裕層の資産がその国の総資産に占める割合を示したデータによると、世界で一番富の独占が進行しているのはロシアでなんと84.8%! 残り15.2%を90%の国民で分け合っています。2位のトルコ(77.7%)から途上国が続きますが、先進国ではアメリカが7位(74.6%)で、上位10%の富裕層によって約4分の3の資産が独占されていることが分かります。

アメリカと違い日本の上位1%は年収にして2,100万円あたり

世界資産の13%を わずか0.004%の人たちで独占している

では、日本はどうでしょう。同じデータによると、上位10%の富裕層が占める資産は総資産の48.5%で、同調査ではベルギーの47.2%に次いで低い数値でした。これを多いと見るか、少ないと見るかには個人差があるでしょうが、アメリカン・ドリームに象徴されるような桁違いの富豪は日本には少ないことも確かのようです。

そもそも、日本の所得上位1%とは、どのくらいの年収があるのでしょう。ピケティ氏の利用するデータによれば、日本の上位1%の平均年収は約2,100万円とのこと。アメリカなら、ゆうに1億円は超えています。もちろん平均ですから、最上位に位置する一部の人たちには桁違いの収入がある可能性はあります。しかし、プール付きの広大な豪邸にプライベート・ジェット機……のイメージはありません。

また、別のデータでは、給与所得者に限れば上位5%でも平均年収は1,000万円ほど。上位10%まで拡げれば600万円を割り込みます。それが日本の現状のようです。

では、日本に格差はないのかといえば、それも違います。正規社員と非正規労働者との間の賃金格差は年収にして100万円をゆうに超えていますし、女性の場合はさらに低い所得になっています。つまり、ピケティ氏の指摘する上位の人たちが桁違いに稼ぐ形の格差ではなく、所得の低い層が増えていくという形の格差が進行しているのです。

世界的な格差の問題を、形は違えそれぞれの国がどう修正していくのか。どういう社会をつくっていくのか。格差が話題になっている今だから、少し自分で考えてみる、また周囲の人と議論してみる。ピケティ氏は、そんな良い機会を与えてくれたようです。