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運動不足は通勤で解消する時代へ 〜スポーツ庁の奨励するスニーカー通勤の効果は?〜

一日に1万歩以上歩くのは男性で29.2%、女性は21.8%

スニーカーで通勤し、会社や自宅の1つ手前の駅で降りて、ちょっと歩く。そして健康増進につなげていく。スポーツ庁がそんなことを奨励しているのを知っていますか。

人は、40歳も過ぎれば誰もが2つのことを考えています。一つは、「若い時、もっと勉強しておけばよかった」であり、もう一つが「ちょっと運動しないとなあ」です。

しかし、意識として分かっていることと、実際に行動がともなうこととは別で、保健福祉動向調査によると、日頃から健康の維持、向上のために何か運動している、体を動かしている人は、男性で52.6%、女性で52.8%となっています。「ちょっと運動しないと」と思っているのに、なかなか動き出せない、続かない、そういう人が多いのも事実です。

定期的にスポーツジムへ通う、ヨガ教室へ行く、そうやって日常生活に運動を取り入れれば理想的ですが、「それもなかなか面倒で」という人にスポーツ庁が奨励しているのが、スニーカーで通勤し、いままでよりちょっと多めに歩くことです。歩くという最もシンプルな運動を増やしていけば、意外に大きな成果がある。経験者はそれを知っています。

厚生労働省の推進する「健康日本21」の調査では、日本人の平均的な一日の歩数は、男性で8,202歩、女性で7,282歩となっています。疫学的研究の結果から、厚労省は一日に1万歩以上歩くことが良いとしていますが、実際に一日1万歩以上歩いている人は、男性で29.2%、女性では21.8%しかいません。

男性に一日9,200歩、女性に8,300歩ぐらい歩いてもらうことを「健康日本21」では目標にしています。つまり、あと1,000歩増やす。時間にすれば10分ほどのことです。

背景にあるのは40兆円を超えた国民医療費の削減問

30年ほど昔のアメリカ映画『ワーキング・ガール』の冒頭では、ニューヨークのウォール街で働く主人公の女性が、黒いストッキングの上に白いソックスとスニーカーを履いて出勤し、デスクに着いてからパンプスに履き替えるシーンがありました。

当時は、ちょっと新奇な感じを受けましたが、あれから30年が過ぎ、いまは日本のビジネス・シーンもかなりカジュアルになってきました。スーツを着てスニーカーで出勤しても、さほど違和感はないでしょうし、すでに実践している人もいるでしょう。

もっとも、スニーカー通勤などとんでもない。スーツにワイシャツ、ネクタイ、そして革靴、これがビジネスマンの誇りだと思う人もいます。悪いことではありません。だから、スポーツ庁だって無理にスニーカーを押し付けているわけではありません。

国が国民に何かを推奨する場合は、多くの場合、その背景に財政問題があります。今回の場合は、国民医療費の高騰です。平成28年度では41.3兆円にまで増えました。21世紀が始まった2001年度が約31兆円と比べると、17年で10兆円の増加です。超高齢化社会が進んでいる日本では、この先も国民医療費の伸びは深刻な問題になるでしょう。

だからといって、国民医療費削減のために運動をするのではありません。運動をする、歩く、そして健康を守っていく。それは私たち一人ひとりの生活の質を高めることに繋がります。スポーツ庁に言われなくても、黙って日々歩く人が増えるのが一番です。

プレミアム・フライデーは今ひとつ盛り上がりに欠けますが(そもそも月末の金曜日は忙しい)、さて今回のスニーカー通勤の奨励、どれほど社会に浸透するでしょうか。