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イギリスに「孤独担当相」が誕生! 少子・高齢・ネット社会に広がる孤独と疎外は世界共通の課題

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孤独が国家経済に与えるマイナスの影響は年間320億ポンド

arekore_22013年に公開された『おみおくりの作法』(原題:STILL LIFE)というイギリス映画は、孤独死した人びとの葬儀を一人で担当するロンドン市の民生係の誠実な生き方が描かれ、ヴェネチア国際映画祭(オリゾンティ部門)で監督賞など4部門の賞を受けた素晴らしい作品です。原題のとおり、とても静かな映画で、登場する人がみんな孤独であるのも印象的です。じつは、この作品に描かれた社会は、現実のイギリスそのものでした。

今年1月中旬、イギリスのメイ首相が「孤独担当相」(Minister for Loneliness)を新設し、ステイシー・クラウチ下院議員が担当大臣に指名されたニュースは、「無縁社会」の広がる日本にとっても、対岸の火事だと看過することのできない深刻なものでした。

イギリス赤十字社によると、人口6,560万人のうち9,00万人以上が「常に」あるいは「しばしば」孤独を感じており、それは高齢者だけでなく子供や親、若者世代にも広がっているそうです。そして、孤独感は心の問題を超え、健康や経済にも影響を与えます。

故ジョー・コックス議員が立ち上げた「孤独委員会」の調査では、孤独感は一日にタバコを15本吸うのと同じくらい健康を害し、国民に広がっている孤独が国家経済に与えるマイナスの影響は年間320億ポンド(約4.9兆円)に相当すると試算されています。

イギリスでは、パブや教会などが伝統的に人びとを結びつける役割を担ってきたと言われますが、社会の変化、人びとの意識の多様化の中で、人と人を繋ぐ絆の存在が希薄になってきたことは否めないようです。かつて「ゆりかごから墓場まで」と謳われた福祉国家イギリスが直面する問題は、多くの先進国、そして日本が抱える課題でもあります。

「孤独と疎外は隠れた流行病」で、すべての年齢層に影響する

孤独や孤独死というと、ついつい高齢者の問題と考えますが、イギリス赤十字社は孤独と疎外は隠れた流行病だと警告し、「人生のさまざまな節目ですべての年齢層に影響を与えている」と鋭い指摘をしています。

例えば、日本では「ひきこもり」は若者だけでなく中高年にまで広がる社会問題になってきています。内閣府の「子供・若者の意識に関する調査」(平成28年度)では、15歳から29歳までの男女の87.3〜90.6%が自分の居場所は、家庭でも学校でも職場でもなく「自室」だと答えており、少子社会で育った世代らしく一人でいることを好む傾向がみられます。そして、インターネットの普及が、こうした風潮を後押ししています。

また、生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)は2015年の国勢調査で男性23.4%、女性14.1%と過去最高になっており、中高年の「おひとりさま」も確実に増えています。もちろん、「一人=孤独」ではありませんし、大勢の人の中にいる時に孤独を感じることも珍しいことではありませんが、さまざまなアンケートや調査結果を見ると、先進国の多くに、そして日本の社会にも孤独が蔓延しつつあることは否めません。

では、この問題に、私たちは何ができるのでしょう? メイ首相は孤独担当相の設立に際して、“われわれ全員が抱える孤独という問題に向き合い、(略)人びとが直面している孤独に対し、行動を起こしていきたい”と語りましたが、国や自治体が取り組んでも一朝一夕に解決できるテーマではありません。まして個人の力は弱い。であれば、まず自分が、そして周囲の人が孤独に苛(さいな)まれないよう配慮する。そこが出発点でしょうか。