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デンマーク発の「ヒュッゲ」に世界が注目!真似ではなく、自分たちの生き方、幸福感を見直すきっかけに

北欧の人びとの生き方や価値観から生まれた幸福のあり方

arekore_085iここ数年、「ヒュッゲ」という聞き慣れない言葉を耳にしたり、読んだりすることが多くなってきました。ヒュッゲ(hygge)とはデンマーク語で、「こころやすらぐ」とか「居心地の良さ」などを意味します。冬が長い北欧では、自宅にこもって暖炉のある部屋に家族や友人が集まり、手編みのセーターなど着て、コーヒーを飲んだり、ケーキを食べたりしてくつろぐ。そんな時、ホッと心がやすらぎ、幸せを感じる。翻訳が難しいと言われるヒュッゲですが、イメージとしては、そういう時に使われる言葉のようです。

そのヒュッゲが、いま世界中で静かなブームになっています。試しに、アマゾンで「ヒュッゲ 本」と検索すれば10冊以上がヒットします。さらに「hygge book」なら、それこそ100冊以上(関連本も含めて)もあり、北欧の人びとの生き方や価値観から生まれた幸福のあり方が、文化や社会システムの違いを超えて、共感を呼んでいるのが分かります。

しかし、振り返ってみれば、スローフードやスローライフなど、自然と調和してゆっくり生きようという言葉、LOHAS(ロハス)のように多くのビジネスを巻き込んだライフスタイル変革ムーブメントのようなものもありました。ただ、それらが日本人の生き方や働き方、幸福感などに大きな影響を与えたかとなると、さほどでもないようです。

ヒュッゲも同じように一時の流行でしかなく、そのうち消えるという辛口の意見もあります。また、外国のライフスタイルが素敵に思えるのは、隣の芝生が青く見えるのと同じ。それを他の国や文化圏へ持っていっても同じ結果になるとは限らない。そんな指摘も間違ってはいないでしょう。しかし、ヒュッゲには、多くのことを考えさせられます。

家に居場所がなく、街をさまよう「フラリーマン」も多い

ヒュッゲを世界に紹介したのは、イギリスの女性ジャーナリストが書いた一冊の本でした。彼女は著名な雑誌の編集者として多忙なビジネスライフを送り、ストレスも多く、夜はアルコールなしでは眠れなかった。そんな彼女が夫の勧めでデンマークに移住し、そこで出会った生き方、そして、ヒュッゲという幸福感に衝撃を受けたと言います。

つまり、ヒュッゲとは、多くの先進国で見られるビジネス中心の生き方、金銭的な豊かさばかり追求する姿勢、家族や友人などの人間関係が希薄になっていく社会、それらに対して、本当にそれでいいの?それで幸せなの?と問いかける言葉なのです。

いま働き方改革の議論が盛んですが、一方では、残業が減ったのに家に帰らず、街をさまよう「フラリーマン」も多くなっています。家に帰っても、居場所がない、そんな哀しい声もあります。お茶の間とか一家団欒という言葉は死語になりつつあり、家族がそれぞれの部屋でパソコンやスマホで自分の世界に閉じこもっている。そこにしか「こころのやすらぎ」や「居心地の良さ」を感じられなくなっている人も少なくはないでしょう。そして、それは日本だけでなく、先進国と呼ばれる国々では大同小異の傾向です。ヒュッゲは、そんな社会の拡大に、本当にそれでいいの?それで幸せなの?と呼びかけます。

勤勉で、かつては「ワーカホリック」(働き中毒)とまで言われた日本人に「ゆとり」は難しいのでしょうか。いえいえ、昔は「そこそこ」とか「ほどほど」という考え方、生き方もありました。関西では、いまも「ぼちぼち」がよく使われます。  ヒュッゲを真似るのではなく、自分の「こころのやすらぎ」は何だろう、そう問いなおしてみませんか。