情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
訪日客が増える、ビーガンも増える! 〜完全菜食の市場が拡大し、ビジネス面でも無視できない〜
動物の肉や魚、卵、乳製品も食べない人を満足させる食を
今年は8月の半ばに訪日客が2,000万人を超え、単純計算なら年内に3,000万人に達する勢いです(ちなみに昨年は2,869万人)。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの年には4,000万人を達成するという政府の目標も現実味を帯びてきました。
訪日客の数が増えることの是非はともかく、最近はある課題が指摘されるようになってきました。それはビーガン(ヴィーガン)と呼ばれる人びとへの対応です。
菜食主義のベジタリアンは日本でも知られていますが、ビーガンは動物の肉(魚も)を食べないだけでなく、卵や乳製品、ハチミツも口にしません。さらには皮製品やシルク、ウールなどの動物製品も使用しないという厳しいライフスタイルの人びとです。日本は“おもてなし”の国ですから、彼らにも満足してもらえる対応が求められているのです。
日本ベジタリアン協会によると、ベジタリアン人口はアメリカで13.7%、イギリス16%、ドイツ11%ですが、そのうち3〜5割ほどがビーガンだと推測されています。彼らが日本を訪れた時、食べるものがなければ、“おもてなし”の国とは言えません。
すでにネットではビーガン対応レストランがいろいろ紹介されていますが、さらに拡げていこうという動きが出ています。全世界ではビーガンに対応する加工食品だけで1兆円を超える市場と言われますから、ビジネス面から考えても無視することはできません。
完全菜食と聞くと、サラダや根菜の煮物のイメージですが、最近は植物性の素材を使って見た目も味も肉に近い料理がつくられています。何も聞かずに食べれば、完全菜食だと気付かない、そんな料理も少なくありません。時代は、そこまで来ているのです。
アメリカで3人に1人、イギリスでは4人に1人が肥満
欧米でベジタリアンやビーガンが増える背景には、動物愛護や環境問題だけではなく、肥満や健康問題があります。アメリカでは1977年に上院マクガバン委員会が、10大死因のうち6つが食生活と大きく関係していることを指摘し、炭水化物や脂質、糖質などを減らす食生活の目標が掲げられました。以来、食生活の改善はアメリカの大きな課題ですが、慣れた食文化を変えるのは容易ではなく、課題は課題のままです。
イギリスも基本的には同じで、国連食糧農業機関 (FAO)によると、BMI値が30を超える肥満の割合はイギリスで24.9%、アメリカで31.8%になっています。こうした事情を背景に、食生活を動物性から植物性へと替えるベジタリアン、ビーガンが増えているのです。さらには、アメリカの場合、食べ物の「質」だけでなく「量」にも問題がありそうです。
日本人の食生活もかなり欧米化してきましたが、伝統的には米飯、野菜、汁が基本で、ときどき魚が加わるというものです。これ、ほとんどベジタリアンの食事です。日本でベジタリアンがあまり増えない理由は、もともと植物性の食事を続けてきたという理由があるようです。さらに、精進料理と呼ばれるものに至っては、ビーガンの食事そのものと言えるでしょう。日本の肥満率が先進国で一番低いのも納得できます。
とはいえ、1960年に一人一年に3.5kgだった日本人の肉食(牛、豚、鶏)は、2013年には30kgにまで増え、菜食中心とは言えなくなりつつあります。そして、徐々に肥満率も上がってきています。訪日客の食事問題をきっかけに、自分たちの食事の変化、そして肥満や健康の問題を見直すことも必要のようです。人のふり見て我がふり直せ、でしょうか。
肉1kgには穀物11kg
誰もがベジタリアンになる時代!?
牛を育て、肉1kgをつくるには穀物11kgが必要(豚は7kg、鶏は4kg)。国連の予測では2050年には世界人口は100億人近くなる。その人びとを養うには、肉食を減らして穀物中心の食事に変える必要がある。つまり、主義ではなく、必要に応じて誰もがベジタリアンにならざるをえない時代がきている。科学者たちは、そう警告する。