情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
“アニマルウェルフェア”って何だ? 家畜にもストレスが少なく健康的に生きられる環境を
生産性重視の飼育から、家畜の健康に配慮する管理方法へ
11月のアメリカ中間選挙では、上院と下院で多数派が異なる「ねじれ」状態に話題が集中しましたが、中間選挙に合わせて興味深い住民投票が行われたことは、あまり知られていません。その一つがカリフォルニア州での投票で、牛や豚、ニワトリなどの家畜に最低限度の居住空間を与えるという法律の制定に60%以上の賛成が集まりました。じつは2016年11月の中間選挙の際にも、マサチューセッツ州で同様の住民投票が行われ、やはり家畜の飼育方法を改善する法案が賛成多数で可決されています。
こうした動きの背景にあるのは、アニマルウェルフェア(Animal Welfare)という考えで、1960年代にイギリスを中心にしてヨーロッパで始まりました。たとえ家畜であってもストレスが少なく、健康的に生きられる環境で飼育しようという畜産のあり方です。日本では動物福祉とか家畜福祉と呼ばれ、10年ほど前から農林水産省が主導して家畜ごとの飼育管理方法が作成され、少しずつですが全国の畜産農家に広まりつつあります。
国際獣疫事務局(OIE)がアニマルウェルフェアに関して発表した勧告では、「5つの自由」が飼育の指針とされています。それは、
- 飢えや渇き、栄養不良からの自由
- 恐怖や苦悩からの自由
- 物理的および熱の不快からの自由
- 苦痛や傷害、疾病からの自由
- 通常の行動様式を発現する自由
の5つです。
従来の飼育では、狭い空間に多くの家畜を入れ、病気が発生しないよう抗生物質をエサに混ぜ、時には成長を早めようとホルモン剤を投与したりすることもあります。コスト低下と生産性を優先する飼育方法を見直そう、そんな動きが広まっているのです。
グレードの低い栄養では、それなりの結果しか出せない
牛や豚などの家畜には人間と同じように痛みを感じるシステムがあり、感受性も持っていますから、劣悪な環境でストレスや苦痛を感じて飼育されたら、それは肉質にも影響すると考えられています。そういう意味でもストレスの少ない環境で育った家畜の肉や鶏卵を提供してほしい、そんな要望が出され、いま注目されています。要望したのはオリンピック金メダリストを含むアスリートたちで、要望先は東京都知事と2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会です。
アスリートたちが発表した声明文を読むと、選手の食べるものが競技の結果に直結するので、ストレスが含まれたグレードの低い栄養では、それなりの結果しか出せない。だから選手村での食事には、ケージフリー卵(平飼い卵、放し飼い卵)100%、妊娠ストール(妊娠した豚を拘束する檻)を使わない豚肉100%を提供してください、と訴えています。
「2012年のロンドンオリンピックでは放し飼い卵、または有機卵が、また豚肉は妊娠ストールなど残酷な飼育を経ていない豚肉が使われました。2016年のリオオリンピックでは、ケージフリー卵と、大手企業は自主的に妊娠ストールを用いて生産した豚肉は使用しませんでした」と前例を示し、東京大会が過去の大会より劣らないことを求めています。
日本人は、和食を健康的な食事と誇り、世界に紹介しています。それは間違ってはいませんが、視点を変えると、日本の食事情にも課題はあります。野菜は有機栽培や無農薬にこだわり、食品添加物にも注意する、そんな人は多くいます。しかし、食肉を提供する家畜がどんな環境で飼育されたのか、そんな点にも配慮する時代になってきました。
ジビエはウェルフェアか?
昔の日本は野生の肉がほとんどだった
昨今、人気のジビエ料理、ヨーロッパでは貴族の伝統料理として知られています。ジビエとは野生の鳥獣の肉を意味するフランス語です。江戸時代まで肉食の少なかった日本では、欧米のように家畜を飼って肉を食べることは少なく、野生のシカやイノシシなどの肉を鍋にして食べていた。いわばジビエ大国?