
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
日本は、まだ「安全な国」なのだろうか? 表面的な平和の裏に広がる暗くて陰湿な犯罪の群
刑法犯の認知件数は約91万件、ピーク時の3分の1以下に
日本人は、水と安全はタダだと思っている。『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサン著、1970年刊)に書かれた印象的な一文で、70年代から80年代に様々なシーンで引用されました。確かに、当時も今も一歩海外へ出ると水道の水を飲めないのは珍しくないし、先進国であっても犯罪に巻き込まれる確率が日本より高いのは誰もが実感しているはずです。言い換えると、海外へ出たときに初めて日本の安全さを痛感する。それも事実だと思います。
では、日本はそれほど安全な国なのでしょうか。水に関していえば、ガソリンより高い値段の水がいくらでも売られています。また、ホームセキュリティを主な業務とする警備会社が1兆円近い売上を上げているので、安全もタダとは言えないと思えます。
2018年版の『警察白書』によると、刑法犯の認知件数は約91万件(ピーク時は285万件)と大幅に減少し、内閣府の世論調査でも80%以上の人が日本を「安心して暮らせる国」だと思っています。また、海外の調査機関が発表するランキングでも、安全度において日本は常に上位にランクされ、日本が危険な国だという評価は見たことがありません。
銃社会のアメリカで年間に1万人以上の人が銃殺されているのに(銃での自殺は2万人以上)、日本では2017年の発砲件数は22件(暴力団関係が13件)で死者は3人。銃以外の事件を含めても、年間の刑法犯での死者は1,000人を下回っています。
水も安全もタダではないにせよ、諸外国と比較して日本が安全な国だという評価に大きな異議をはさむ余地はなさそうです。しかし、日本に暮らしている私たちの実感として、日本ははたしてそれほど安全な国なのでしょうか。
虐待、イジメ、ストーカー、DV、すべて過去最多を記録
犯罪報道に接して、誰もが一番心を痛めるのは幼児の虐待ではないでしょうか。厚生労働省によれば平成29年度、全国210カ所の児童相談所が対応した虐待の件数は、なんと13万3,778件。平成20年の4万2,664件と比較しても3倍以上に増え、もちろん過去最高の多さです。虐待による死亡の数も49人を数え、考えるだけで息苦しくなります。
学校に通いだすと、今度はイジメです。文部科学省の発表では、平成29年度に小中高で認知されたイジメ件数は41万4,378件、これも過去最多です。児童、生徒1,000人あたり30.9件ということは、100人に3人、つまり33人に1人がイジメにあっている計算です。不登校は小中で14万4,000人を超え、高校では5万人近くに達しています。
また、15~39歳の若い世代で、死因の第1位が自殺というのも世界的にみても深刻な状況で、厚生労働省も、こうした傾向は先進国でも日本だけだと白書で指摘しています。
さらに大人になればストーカー。警察庁が発表した平成29年のストーカー件数は2万3,079件、ストーカー規制法が実施されて以降で最高の数です。そして、家庭内暴力(DV)も同年に7万2,455件の相談があり、これもDV防止法の施行後では最多といいます。
喜ばしいのは交通事故の死者が3,694人(2017年)にまで減り、1948年の統計開始以降で最少となったことですが、一方では「あおり運転」(車間距離を詰めるなど)が2018年1~6月だけで6,130件もあり、深刻な問題になってきていることも事実です。
平和で安全なイメージの裏で、虐待、イジメ、ストーカー、DV、あおり運転など陰湿な犯罪や自殺が増えている。そんな日本を、私たちはどう評価すればいいのでしょう。
有罪率は99.9%?
高い有罪率は犯罪の抑止になるか
日本の刑法犯で犯人が逮捕されると、警察で取り調べた後、身柄を検察庁へと送る。そこで検察官が起訴するか否かを決めるが、起訴となった場合の有罪率は99.9%と言われる。つまり有罪にできる確証がなければ起訴しない。これほど高い有罪率は世界的にも少なく、その高さが犯罪の抑止力になっているとの指摘もある。