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光があふれて星空を失った 〜明るすぎる照明で北米、ヨーロッパ、日本の夜は輝いている〜

世界人口の3分の1、日本人の7割は天の川が見えない環境にいる

天の川を見たことがありますか。満天の星空を眺めたことがありますか。都市部で育った若い世代なら、おそらく答えは「ノー」でしょう(海外旅行で見た、と答える人はいるかも)。実は日本人の7割は天の川が見えない環境で暮らしています。見たくても見えないのです。理由は人工光の影響です。つまり、夜が明るすぎて見えないのです。

「光害」という言葉があります。「こうがい」ではなく「ひかりがい」と読みます。環境省の定義では、照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起きる様々な影響のことをいいます。分かりやすく言えば、照明が過度に明るく、必要のない方向を照らしているために星空が見えない、エネルギーを浪費する、野生動物や植物などの生態系に悪影響を与える、それらを「光害」と呼ぶのです。

地球の夜は、そんなに明るいのでしょうか。それを的確に教えてくれる画像があります。NASAが撮影したもので、北米やヨーロッパ、日本を含む東アジアの夜が照明で煌煌と光り輝いている様子が映っています。「nasa at night」で検索してみてください。

これでは星空が見えないのも納得できます。数年前にアメリカとイタリアの研究グループが発表した論文によれば、世界人口の3分の1は天の川が見られないほど光害の影響を受けていて、北米では80%近く、ヨーロッパでも60%ほどの人が、そして前述したように、日本でも約70%の人が見られない環境にいるといいます。

夜空から星が消えていくと、人は空を見上げることが少なくなり、心からはロマンが失われていきます。『上を向いて歩こう』のような叙情的な世界はなくなるでしょう。

美しい星空があったからギリシア神話や七夕伝説が誕生した

光害の影響は星空だけではありません。エネルギー消費という現実的な点でも問題が指摘されています。アメリカの民間団体が2013年に調査したところ、世界全体のエネルギー消費のうち、屋外照明に使用されている割合は約8%で、そのうちの60〜70%は過剰な照明、空に向かって光が漏れているなど「浪費」と呼べるものでした。単純に計算すれば、世界のエネルギー消費の5%ほどが光害の主な原因となっているのです。

生態系への影響もあります。生物は、昼と夜が繰り返される環境の中で数億年の時間をかけて進化してきました。夜が明るすぎると夜行性の動物は変化に戸惑い、人工光に誘われて通常とは違う行動をとることもあります。ウミガメ、渡り鳥、ホタルなどが光害の影響を受けていることはよく知られています。

大航海時代に北極星や南十字星が見えなかったら、船乗りたちは何を目印に大洋を航海したでしょう。夜空に天の川や多くの星座がなかったら、ギリシア神話も七夕伝説も生まれなかったでしょう。女性が大好きな星占いだって、12星座が天空に輝いていたからこそ創造されたのです。宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』、サン=テグジュペリの『星の王子さま』などもインスピレーションは美しい星空から得られたのではないでしょうか。

人類の文化、文明は物質と精神の両面で支えられています。しかし現代は、物質的な側面が強くなりつつあります。もし光害が拡大して夜空がただの闇になったとしたら、人類の精神は痩せ細っていくのではないでしょうか。夜、空には多くの星が輝いている。それが地球誕生以来の自然な姿です。その自然をもう一度取り戻したいと思いませんか。