
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
深刻化する子供の貧困率 〜「子供食堂」「無料塾」などの支援も全国に広がる〜
子供の貧困率16.3%、約6人に1人が貧困状態に
かつて高度経済成長時代の日本は「一億総中流」と言われましたが、それも完全に幻と化したようで、いまは富裕層と貧困層とに差が広がる格差社会になってきました。2015年末、家庭全体の金融資産は1741兆円と過去最高になる一方、「金融資産なし」が単身家庭で47.6%、2人以上の家庭で30.9%になり、20代に限れば62.6%と圧倒的です。
とくに深刻で胸が痛むのは子供の「相対的貧困率」が16.3%、6人に1人の子供が貧困状態にあるという事実です。ときどき、アフリカや東南アジアの例を持ち出して、「彼らに比べれば日本の貧困などまだまだ豊かだ」とシニカルに批判する人がいます。しかし、国や地域によって違いがあるのは当然で、日本社会の中で相対的に貧しく、食事が満足にできない、進学できない子供たちが6人に1人というのは明らかに深刻な問題です。
ここ1、2年、新聞やテレビで「子供食堂」の活動が紹介されているのを読んだり、見たりしたことはありませんか。家で十分な食事ができない子供たちに無料で、あるいは安い費用で食事を提供する試みです。大手新聞社の調査によれば、すでにすべての都道府県に「子供食堂」があり、全国では300カ所を超えているとのことです。
本来なら貧困状態にある子供へのケアは国や自治体がすべきことでしょうが、現実の貧困はそれを待っていられません。だから地域の人びとが自分たちにできる範囲で子供たちをサポートしようとしているのです。同じような趣旨で「無料塾」もあります。経済的に苦しい子供たちが無料で受講できる学習塾です。イエスは「人はパンのみにて生きるにあらず」と言いましたが、子供の将来のためにはパン(食事)の他に勉強も大事です。
奨学金を返済できず「奨学金破産」になる若者が急増
子供の貧困は、もちろん日本だけの問題ではありません。経済協力開発機構(OECD)のデータ(2010年)を見ると、子供の貧困率はスペイン18.9%、アメリカ18.6%、イタリア16.6%などで数値的には日本より悪いです。皮肉なことに、スペインとアメリカは、かつての日本と同じように国民総中流の意識が強かった国です。逆に貧困率が低いのはやはり北欧社会で、デンマーク3.0%、フィンランド3.7%、ノルウェー4.4%となっています。
子供の貧困とは親の貧困が反映したもので、日本の子供の貧困率が高くなっている背景には、非正規雇用とひとり親家庭の増加があると再三指摘されています。それは間違ってはいないでしょう。しかし、北欧の国々は日本以上にひとり親家庭が多いのも事実です。にもかかわらず子供の貧困率は低い。社会のあり方、家族のあり方が多様化するのに応じて、雇用や福祉など社会政策をも多様化させてきた。その差ではないでしょうか。
貧困の波紋は、子供(17歳以下)を卒業した後にも及んでいます。貧しいなりにも将来を考えて大学へ進学する。その際、頼りにするのが奨学金ですが、学費と生活費を賄うのに奨学金だけでは足らず、学校へも行かずにアルバイトに励むという学生も少なくありません。中退すれば、残るのは奨学金の返済だけ。卒業できても、奨学金の返済に四苦八苦して、ついには奨学金破産に追い込まれる例も増えています。
どこまでいっても貧困のループから抜け出せない。現実を知れば知るほど息苦しくなります。子供は、そして若者は、国の将来を担う人材です。そこへの支援は国の将来への投資でもあります。これは誰もが考えるべきテーマです。
「相対的貧困率」って何?
一般的所得の半分以下の人の割合
世帯所得から税金や社会保険料を除き、国民一人ひとりの年間の手取り額を低い方から順番に並べた時、ちょうど真ん中に当たる人を基準とし(2012年は244万円)、その金額の半分に届かない人の割合を示す。つまり2012年は122万円に届かない人の割合となる。子供(0〜17歳)は親の所得などで計算する。