
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
アフリカゾウを密猟から守れるか 〜ワシントン条約会議でも象牙の国内市場閉鎖が求められた〜
年間に密猟されるアフリカゾウは3万5000頭と推定される
16世紀も終わろうとする1598年ごろ、インド洋に浮かぶ小さな島モーリシャスでドードーという鳥が発見されました。ハトの仲間でしたが島には天敵もなく、逃げることを忘れたドードーは、やがて飛ぶことができなくなりました。そして大航海時代、ヨーロッパからインドへ向かう途中の寄港地としてモーリシャス諸島が見つけられ、そこに生息するドードーは手頃な食料として捕獲されました。砂糖農場のために自然(生息地)が破壊され、人間の持ち込んだペットもドードーや卵を食べた結果、発見から100年も経たない1681年に目撃されたのを最後に、ドードーは地上から姿を消しました。絶滅したのです。
アフリカゾウも、ドードーと同じように数十年後には絶滅するかもしれない。いま生息地のアフリカを中心に、世界中がその危機感を抱いています。その主な原因は、象牙を狙った密猟です。自動小銃を持ち、ジープに乗った密猟者たちはサバンナを移動し、手頃なゾウを見つけると射殺してはチェーンソーで象牙を切り取って逃げていきます。
国連環境計画(UNEP)の推定では、年間に密猟されるゾウの数はアフリカ全土で約3万5000頭にものぼり、いまではゾウの死の半分以上が自然死ではなく密猟によるものといわれています。その結果、1930〜40年代には300万〜500万頭もいたアフリカゾウが、現在では50万頭ほどに減少していると推定されています。
闇市場では1本100万円近い値段がつくといわれる象牙ですが、主にアジアの新興国などで富裕層を中心に需要が増えており、アフリカ諸国がレンジャーを投入してゾウの保護に力を入れても、密猟と密輸を防げない。残念ながら、それが現実のようです。
日本は取引禁止前の在庫を販売、市場規模は年間20億円
アフリカゾウの象牙は、ワシントン条約により1989年に国際取引が原則禁止(翌90年に発効)となりましたが、それ以前に輸入されていた象牙を各国が国内で販売することは許されています。となると密輸された象牙を、「国際取引が禁止になる前に輸入したもの」と偽って販売することも可能になるわけで、密猟と密輸を完全に防ぐには世界の国々が国内市場での取引も停止すべきだという意見は強く、アメリカと中国は昨年、国内市場での取引停止を表明しています。また、今年の秋に開催されたワシントン条約の会議でも、違法な販売が行われる可能性のある国内市場は閉鎖すべきという決議が出ました。
日本では、象牙は印鑑や装飾品の材料として人気があります。1930年から国際取引が禁止になる1989年までの間に、日本は約5000トンの象牙を輸入し、現在も国内での販売が行われています。その市場規模は、年間20億円ほどといわれます。象牙取引の管理体制を厳しくし、適切な販売が行われているというのが国の主張ですが、最近ではネット販売を中心に違法な取引がみられると世界から厳しい批判を受けているのも事実です。
象牙を取引する市場がある限り、密猟や密輸はなくならないという意見があります。また、市場をなくせば象牙の希少価値が高まり、高く売れるならと危険を冒しても密猟しようとする者が続く。だから健全な市場は残しておくべきだという意見もあります。
要は、野生生物たちと共存していくため、人間は自分たちのさまざまな欲望をどうコントロールしていくかという問題なのですが、ドードーを始め多くの野生種が絶滅してしまった現在も、私たちはその難問に適切な解答を出せずにいるようです。
ヒトが増え、野生が減る
過去400年で700種余りが絶滅
近代以降にも野生生物の多くが絶滅したが、その原因のほぼ100%が人類の行為に関係しているといわれる。産業革命が欧米を中心に世界へ広がり、急速に人口が増えた。それは自然にも野生生物にも大きなプレッシャーだった。結果、1600年以降に700種余りの野生生物が絶滅し、人類は20世紀初めの17億から70億へと増えた。