情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
細菌を殺さず、共生する発想を 〜アメリカでは抗菌石けんの効果が疑問視され販売禁止に〜
日本でも指摘された成分から代替品への切り替えが進む
日本人は世界的にみても清潔志向、安全志向が強いといわれます。そんな国民性を反映しているのでしょう、スーパーやドラッグストアには殺菌、除菌、滅菌などを謳う抗菌グッズが溢れています。厚生労働省によると抗菌成分を含む薬用石けんだけで約800品目が承認されているそうで、こうした抗菌加工製品全体の市場は過去20年で急成長し、すでに1兆円を超える規模にまで拡大しているといわれます。
そんな抗菌ブームに水を差すようなニュースが先ごろありました。アメリカ食品医薬品局(FDA)が、19種類の殺菌剤を含む抗菌石けんの販売を禁止すると発表したのです。その理由は2つ。まず、殺菌剤を含む抗菌石けんには消費者がイメージしているほどの顕著な殺菌効果は認められず、普通に石けんと水で洗うのと差がないこと。そして、もう1つの理由として、殺菌剤を含む石けんを使うことは、長期的には健康に害をもたらす可能性があることを指摘しています。
FDAが問題にした殺菌剤は19種類ですが、主に使われているのはトリクロサンとトリクロカルバンという成分で、日本でも多くの製品に含まれています。FDAの発表を受け、日本の業界も代替成分への切り替えを始めました。また厚生労働省は都道府県に対して、トリクロサンやトリクロカルバンなど19種類の抗菌成分を含む石けんを製造販売する業者に、これらの成分を含まない代替品へ切り替えることを周知するよう求めました。
清潔に暮らし、病原菌などから健康を守ろうと使っていたものが、じつは期待ほどの効果がなく、使いつづけると健康への危険性さえある。これは大きなショックでしょう。
腸内には3,000種類、100兆〜1,000兆個もの細菌がいる
多くの人は細菌とか菌と聞くと、1990年代に大きな被害を出した病原性大腸菌O157やノロウイルスを連想し、有害な悪玉菌をイメージするようです。しかし、実際には細菌の働きによって私たちの健康、生命が維持されていると言っても過言ではありません。例えば、私たちの腸内には3,000種類もの細菌が100兆個から1,000兆個も存在していますが、彼らがビタミン類の生成を行ない、免疫力までつくり出してくれます。代表的な有害菌である大腸菌など全体の0.1%にも満たず、決して細菌=有害ではありません。
気味の悪い話ですが、私たちの皮膚も細菌だらけです。皮膚には粘膜と細菌の働きでバリアがあり、有害な菌の侵入を防いでいます。時には、そこに有害な菌が付着することもありますが、石けんと水で洗えば流れていきます。殺菌剤を使用する怖さ(危険性)とは、有害菌だけでなく有益菌まで一緒に殺してしまうこと。もし有害菌だけを選んで殺し、有益菌には作用しない薬剤があれば便利でしょうが、そんな都合のいい話はありません。
抗菌石けんを使いつづけると、成分が口から皮膚から体内に入り、健全に保たれている腸内の細菌バランスを徐々に崩していく可能性がある。FDAの指摘する危険性とは、そういうことです。腸内の細菌バランスが崩れると、腸とは関係のない心臓や脳にまで病気が発生する可能性があり、人の寿命そのものにも大きな影響を与えるといわれます。
いままでに地球上で発見されている細菌は6,800種類ほどですが、実際には、その10倍〜100倍の種類がいると推定されています。それらの細菌を殺すのではなく、共存する。相手が見えないだけに想像が難しいのですが、そういう発想が必要ではないでしょうか。
耐性菌が現れる可能性も
抗生物質に似た働きをする抗菌成分
抗生物質を使うと多くの細菌は死滅するが、中には生き残り、その薬剤への抵抗力を身につける菌が現れることがある。耐性菌である。抗菌石けんの成分が細菌を殺す仕組みは抗生物質のそれと似ているため、長く使用すると耐性菌が出る可能性もある。それらが環境中に出て行くと多くの生物に害を与える。