
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
季節を告げる動物が消えていく 〜都会に生きるのはヒト、ペット、カラス、ハトばかり〜
四季を彩る植物や動物が日本人の感性をはぐくんできた
ウグイスは早春に「ホーホケキョ」と鳴いて春の訪れを知らせることから、別名を「春告鳥」といいます。メジロは、互いに押し合うように木の枝にビッシリと並ぶので「目白押し」という言葉が生まれました。「ヘビに睨まれたカエル」という表現は、言うまでもなく両者の捕食関係からできたものです。また、昔の日本の小川には当たり前のようにメダカが泳いでいて、その様子をもとに童謡『めだかの学校』がつくられました。
私たちが生きている世界の周辺には、ごく普通にさまざまな動物がいて、植物があり、それらが人びとの感性をはぐくみ、また文化にも影響を与えてきました。とくに日本のように四季の移ろいがはっきりした風土では、食べ物にも植物や動物にも旬があり、どんな野菜を食べるか、どんな花が咲くか、またどんな動物を見かけるかによって季節を感じ、心を豊かにしてきました。いわば日本人の感性がはぐくまれてきたのです。
しかし、都会では様子が変わってきました。気象庁は23種の動植物を観測することで季節の変化を調べる「生物季節観測」を全国でおこなっていますが、そのリストを見て驚きました。観測の対象になっている11種類の動物は、いま都会ではほとんど見ることがないのです。鳥は、ウグイス、ツバメ、ヒバリ、モズ。両生類はトノサマガエル。虫は、モンシロチョウ、キアゲハ、ホタル、シオカラトンボ、アブラゼミ、ヒグラシ。
若い世代なら、名前を聞いてもどんな生き物かイメージできないものもあるのではないでしょうか。都会にいるのはイヌやネコなどのペット、そしてカラスとハトぐらい。ごく普通にチュンチュンと鳴いていたスズメでさえ、その声を聞かなくなってきました。
東京都心ではウグイスもヒグラシも15年以上観測なし
野生生物の減少と聞くと、私たちは遠いアフリカのサバンナに生きるゾウやサイ、ライオンなどをイメージしがちですが、じつは身近なところでも気付かぬうちに多くの動物や植物が静かに姿を消しているのです。都市化によって彼らの生きる場所がどんどん減り、またエサになる小動物がいなくなれば、自然に捕食者も消えていきます。
気象庁(東京管区気象台)の観測で、ウグイスが春を告げる声を聞いたのは2000年が最後です。ヒグラシのあの物悲しい鳴き声も2002年以降は途絶えています。ツバメの姿を都心で見たのは2014年が最後とのこと。また、ホタルは鑑賞会などで見ることはありますが、野生のホタルが舞っている幻想的な光景を都会で見ることはありません。
残念なことに、こうした傾向は少しずつ地方へも広がっていて、全国の「生物季節観測」で昨年トノサマガエルを確認したのは6県だけ、ホタルの観測は33府県だけでした。梅や桜などの樹木は人工的に植えるので季節がくれば都心でも咲きますが、野生動物たちは都会でも地方でも徐々に姿を消しつつあります。
『万葉集』(約4,500首)には植物を詠んだ歌が約1,500首、動物が出てくる歌が約600首もあるそうです。日本に限らず、また文学作品に限らず、動植物をふくむ豊かな自然が人びとの心を豊かにし、感性を磨いてきました。それが文化を創造してきました。
暑いか寒いかでしか四季を感じられず、街の風景は一年中同じ。食べるものにも旬が失われ、ペットのイヌやネコの他には動物の姿は見られない。いるのは人ばかり。もし、そんな世界がどんどん広がっていくとすれば、寂しく、味気ないとは思いませんか。
哺乳類33種が絶滅の危機
まだ日本には多くの動植物が生息
環境省の「レッドリスト2015」によれば、日本国内に生息する野生動物で「絶滅のおそれのある種」に記載されているのは、哺乳類では33種、鳥類97種、爬虫類13種、両生類11種、昆虫類171種など。植物は全体で2,259種が記載されている。絶滅の危機だけでなく、これほど多くの動植物が日本にいることにも驚く。