
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
「加工肉に発がん性」騒動を考える。摂取量増えるとリスク増大は他の食品も同じ
「発がん性」に反応して欧米の政府や産業界が大騒ぎ
誰かがインターネットで情報を発信する。するとマスコミが取り上げて話題になり、それを個人がネットやツイッターで拡散し、情報がショッキングなものであればあるほど大騒ぎになる。冷静な検討もなく、インパクトだけで騒動が広がる情報化社会の怖さの例が、さきごろ世界保健機関(WHO)の発表をめぐってありました。
加工肉や赤身肉に発がん性があると、世界保健機関の外部組織であるIARC(国際がん研究機関)が発表したことが、それです。IARCのプレスリリースを読むと、世界10ヵ国から22人の専門家を集めて委員会を構成し、800以上の疫学調査の結果を審査した結果、ベーコンやソーセージなどの加工肉については「ヒトに対しての発がん性がある」(グループ1)に、牛や豚、羊など獣肉の赤身肉は「ヒトに対しておそらく発がん性がある」(グループ2A)に指定したということです。
「発がん性」という言葉に反応して欧米の政府や産業界が騒ぎましたが、じつは加工肉の発がん性は以前から指摘されていて、栄養学者の間では常識的な話でした。それを今回、IARCが正式に評価リストに掲載したのです。さらに言えば、「グループ1」が「グループ2A」「2B」「3」「4」より危険性が高いわけではありません。評価の基準に「おそらく」とか「可能性」という言葉が使われているように、いま現在、どれほど発がん性の有無が明確であるのか、ないのか、で5つのグループに分類されています。
量の問題もあります。「発がん性がある」ものを少量食べるのと、「おそらく発がん性がある」ものを5倍食べるのと、どちらが危険なのか、それもまた曖昧な問題です。
必要な食べ物にも毒性や危険性はある
欧米人に比べれば日本人の肉類の摂取量はまだまだ少ないといえます。国民健康栄養調査(平成25年度)によると、一日平均でハムやソーセージ類(加工肉)を男性は13.7g、女性は11.0g食べています。牛豚肉は同じく男性が41.3g、女性が28.7gです。
IARCの調査結果では、加工肉の摂取量を一日平均で50g増やすと大腸がんのリスクが18%高まり、赤身肉では100g増やせば17%高まると評価されています。しかし、いま一日平均で11.0~13.7gしか食べていない加工肉を50g増やすとすれば、発がん性うんぬん以前に栄養バランスの観点から見ても危険です。今回のIARCの発表は、その内容は妥当性のあるものでしょうが、量的な面からみれば、国立がん研究センターが言うように「日本人の平均的な摂取の範囲であれば影響はないか、あっても小さい」と考えてよいでしょう。
ほとんどの食べ物には、多いか少ないかはともかく、毒性や危険性があることも再認識すべきでしょう。例えば、塩はヒトには欠かせないものですが、摂りすぎれば高血圧などの原因となり、一度に大量の塩を食べると死に至ります。水も同じことで、短時間に6リットル以上を飲んで死亡した例もあります。コーヒーのカフェイン、チョコレートなども大量に摂取すれば同様の結果となります。そして、お酒は言うまでもありません。
食べ物にもメリットとデメリットがあります。それは食べる量によって変化します。また食べる人の年齢や健康状態によっても違ってきます。いまはダイエットや健康に関してさまざまな情報が飛び交う時代ですが、栄養バランスを考えて、なるべく伝統的な食事を心がけたいものです。たぶん、それが一番「発がん性」も低いはずです。
「発がん性」怖ければ禁煙を
喫煙には肉より明確な危険性がある
「がんの死亡のうち、男性で40%、女性で5%は喫煙が原因(略)、肺がんの死亡のうち、男性で70%、女性で20%は喫煙が原因」(国立がん研究センター)、「喫煙男性は、非喫煙者に比べて肺がんによる死亡率が約4.5倍高く、それ以外の多くのがんについても、喫煙による危険性が増大する」(厚生労働省)という報告があります。