日本の産業や文化の発展を支える最新の技術を紹介するコーナーです。

無害で高品質なステンレス表面仕上「中性塩電解焼け取り法」

外毒劇物である硝フッ酸を排除した電気分解による表面仕上げで溶接現場で働く作業員のリスクを大きく改善させました。

従来のステンレス表面仕上は毒劇物を扱う危険な作業

かつてステンレスの表面仕上は、毒劇物の硝フッ酸などに浸す酸洗処理が主流でした。

しかし、毒劇物を使用するため、取扱いや廃液処理を厳格にする必要があることや、処理中に発生するNOx(窒素酸化物)などによる作業者の安全面などの問題がありました。そのため、酸洗処理は手軽にできるものではなく、外部に頼らざるを得ない企業は、移送・外注のコスト負担が生じます。

さらに品質面にも課題があり、ステンレス鋼の耐食性を向上させる皮膜の形成が不十分であることや、表面にムラが発生することがありました。

電気分解による、安全無害で高品質な表面仕上

溶接の現場から毒劇物の硝フッ酸を追放したいという思いで設立されたケミカル山本は、電気分解に注目して研究を重ね、酸洗法に代わる安全無害で高品質な「中性塩電解焼け取り法」を開発。

電解液に中性の薬品を使い、ステンレス製品の溶接焼けや汚れなどを短時間で除去できる技術で、硝フッ酸を使わないため、場所を選ばず、安全に処理ができるようになりました。

■電解法による溶接焼け取りの模式図

布製のモップをかぶせた電極に電解液を含ませ、ステンレスワーク表面をなぞると、溶接焼けなどを溶解除去。同時に「ウルトラ不動態皮膜」が形成される。

耐食性をさらに高める技術へ

さらに、中性の電解液にフッ素やホウ素などの化合物を配合すると、焼け取り後の耐食性が著しく向上することを発見。この技術を「中性塩電解表面改質法」へと進化させました。

電解処理により、通常の酸素系不動態皮膜に比べ優れた耐食性を示す「ウルトラ不動態皮膜」を形成するため、塩害リスクの高い地域で行った2年間の大気暴露試験でもほとんど錆が発生せず、ステンレス鋼SUS304の耐食性を、合金成分を変えることなく上位鋼種であるSUS316並みに向上させることができました。

また、サンダーなどによる研磨と本電解法を組合せることで、焼け取りできるステンレス鋼の厚さを、それまでの3㎜から10㎜以上に拡大させ、水門などの大型構造物や配管などにも用途を広げました。

溶接作業員を毒劇物から守るこれらの技術は、今後は海外へ普及を進め、世界中の溶接の現場で安全を提供していきます。

取材協力

株式会社ケミカル山本 様

〒738-0039
広島県廿日市市宮内工業団地1-10
TEL:0829-30-0820
http://www.chemical-y.co.jp/