
日本の産業や文化の発展を支える最新の技術を紹介するコーナーです。
「焼き物」のイメージを覆す「toban」

名画や歴史的建造物などの立体的な複製を実現するオンリーワン技術による「toban」が、文化財の保存・活用に貢献しています。

「toban」は…
- 世界最大級となる幅90㎝×長さ3m×厚み2㎝の大型陶板にデジタルデータを転写し、釉薬(ゆうやく)を焼付け、色彩や質感などを立体的に再現できる技術
- 重ね焼きしても割れず、歪みが生じない独自素材で成形

陶の板に釉薬を焼き付ける陶板画
陶磁器製の薄い板である陶板。そこに図柄を焼き付けるのが陶板画で、18世紀中期のヨーロッパで生まれました。高耐光で劣化が少なく、汚れや虫食い、湿気による悪影響もなく、制作時の美しさを保つことができます。
陶板画は、釉薬の焼成による発色を考慮した絵付けなど高度な技術が求められるため、この技術を伝承している製陶所は希少になっています。

陶板画の表現の幅を広げる「toban」
大塚オーミ陶業は、陶板画の付加価値向上のために研究を重ね、焼き物の革新的な技術「toban」を開発し、焼き物の可能性を広げました。
特徴的なのは、まず陶板の大きさ。通常30㎝四方のものが一般的なところ、長さ3mの巨大な陶板を作ることができます。

また、一般的な焼き物は焼き重ねると割れ、歪みなど不良が生じますが、tobanは色彩を見ながら複数回焼き上げることができます。さらには、シルクスクリーンの印刷技術を応用して多彩な釉薬を転写し、画像を焼き付けることもできます。立体的製陶技術によって細部に渡る凹凸をも再現でき、複雑な表現を可能にしました。

キトラ古墳の石室・壁画を複製
特別史跡キトラ古墳は、高松塚古墳に次ぐ2例目の壁画古墳で、石室内に四神、十二支、天文図、日月の壁画があります。調査当時、すでに剥落の危険性があり、保存が最優先でした。
そこで、文化庁より任命を受けた複製品製作委員会の専門家と資料をもとに試行錯誤し、当時の状況に近い色彩はもちろんのこと、白虎、青龍の漆喰剥落や刻線などの細緻な部分も、tobanで忠実に再現しました。
復元された石室や壁画は、奈良県の『キトラ古墳壁画体験館』で展示され、実物の石室に入ったようなリアルな展示を体験できます。
■tobanによるキトラ古墳壁画の製造フローチャート

貴重な陶板名画が一堂に集まる大塚国際美術館

撮影:大塚国際美術館
tobanによる陶板画は、徳島県鳴門の大塚国際美術館で、古代壁画や西洋名画、現代絵画まで1,000点以上が再現・展示されています。
特に原寸大で完全再現されたシスティーナ・ホールは圧巻で、日本にいながらバチカンにあるシスティーナ礼拝堂の雰囲気をリアルに体感できます。
現地調査によって調べた細部の傷や凹凸、痛み、表面の質感まで再現されており、ミケランジェロの描いた「天井画」などに新たな発見があるとともに、陶板画の表現力の高さを感じられる展示となっています。
■大塚国際美術館
https://o-museum.or.jp/
文化財の保存・活用推進で需要の高まる複製技術
toban技術は歴史的建造物の保存や修復事業でも利用され、国会議事堂中央塔屋根の平成の大改修でも特命を受け採用されています。
文化庁は、文化財の保存と活用の方策の中で、公開が難しい脆弱な文化財の精細な複製を挙げています。複製であれば、期間や場所の制限が無く展示が行え、さらにオリジナルでは難しい、作品に触れるような展示もできるようになります。
今後、tobanのような精密複製技術で蘇った文化財に触れる機会がますます増えていきそうです。
取材協力

大塚オーミ陶業株式会社 様
信楽工場
〒529-1836
滋賀県甲賀市信楽町柞原926
TEL:0748-82-3001(代表)
https://www.ohmi.co.jp/