日本の産業や文化の発展を支える最新の技術を紹介するコーナーです。

漆器の伝統技術と最先端技術を融合「高耐久性玉虫塗」

漆器の伝統技術と最先端技術を融合させることで、見る工芸から使う工芸へ。伝統的工芸品の衰退危機を脱し、革新的な市場価値を生み出しました。

伝統的工芸品が衰退の危機に

宮城県の伝統的工芸品「玉虫塗」は、漆器の下地の上に銀の層、さらにその上に透明感のある上塗り層を重ね、艶やかな光沢と華やかな色調が特徴の塗り物です。

東北の産業育成のため、1930年代に商工省工芸指導所(現在の産業技術総合研究所。以下、産総研)にて国策でつくられた技術で、それを東北工芸製作所が商品化し、地場産品として発展させてきました。

しかし、伝統的工芸品であるが故に鑑賞用となりがちで、生活の一部とはならず、衰退の危機にさらされていました。さらに、東日本大震災が追い打ちをかけ、主力の地元贈答品や記念品の注文がキャンセル、観光客の激減で土産品も減少し、経営的に大きな打撃を受け、新たな事業展開の必要性に迫られました。

美観を損なわずに耐久性を大幅に向上させた
新しい玉虫塗を開発

そこで、取扱いの知識がなくても日常で気軽に使える漆器づくりを目指して産総研と共同研究を重ね、玉虫塗の保護膜として粘土とプラスチックをナノレベルで混合した「ナノコンポジットコーティング」を開発。高い耐久性を有した新しい玉虫塗の商品化に成功しました。

ナノコンポジット材料の「クレースト」は、厚さ1ナノメートル(10億分の1メートル)の板状の粘土結晶を緻密に積層したフレキシブルな膜材料で、東北で豊富に産する粘土を原料とした高機能な膜材料です。粘土質でありながら透明性が高いためクリアコーティングに適し、塗料との適合性にも優れています。

通常の玉虫塗に耐擦過性かつ耐候性に富んだナノコンポジットコーティング層を付与することで高耐久性を有する漆器となるため、これまで漆器製品に用いられてこなかったガラス素材も使うことができるようになり、さらには伝統工芸品でありながら食器洗浄機でも洗うことができるようになりました。

東北ゆかりの原料と技術、企業で製品を一貫して作ることができた高耐久性玉虫塗は、伝統技術の高度化により、現代のライフスタイルに合せた食器への漆工の展開が広がるだけではなく、海外への販路拡大、さらには携帯電子機器や自動車内装部品などへの応用の可能性なども期待できます。

「高耐久性玉虫塗」は、新提案型地場産品のトップランナーとして、宮城の復興工芸品の成功モデルとなっています。

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ワインカップナノコンポジットペア
7か国財務大臣・中央銀行総裁会議(2016年 G7伊勢志摩サミット)にて、高耐久性玉虫塗の漆器が各国要人への記念品に採用されました。