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先端技術工芸品「雄勝の濡れ盃」

震災で壊滅的打撃を被った宮城県雄勝町の伝統工芸を、県内の産学官が連携し復興支援。伝統技術と先端技術を融合し、伝統工芸を再生しました。

「雄勝の濡れ盃」の秘密
- 脆性材料で扱いが難しい雄勝石を、極上の冷酒用酒器に加工。
- 酒で濡れると濃いグレーから漆黒に変わる独特の風合。
- 伝統工芸を最新技術で再生し後世に伝える「先端技術工芸品」

硯で知られる雄勝石が震災で壊滅的な被害に
宮城県石巻市雄勝町で産出される、黒色で光沢のある雄勝石。
雄勝石で作られた雄勝硯は、硯の国内シェア7割を誇り、濡れた風合いの素晴らしさから伊達政宗公に献上されるなど、古来から愛用されてきました。1985年には経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されています。
しかし、近年の硯需要の低迷や職人の高齢化の問題を抱えていたところに、東日本大震災が発生。雄勝町も壊滅的な被害を受け、硯を作る工房も失われ、職人が離散。600年の歴史ある伝統工芸の危機を迎えていました。
そこで、雄勝石の伝統を守りたいと立ち上がった県内の産学官が連携して復興プロジェクトを立ち上げ、硯に代わる新製品開発を目指しました。

加工が難しい雄勝石を震災復興の象徴となる新たな工芸品に
新たに開発する製品は、雄勝石の保湿性に優れ水分を入れると漆黒に変わる性質から、平盃が選ばれました。
加工には、雄勝石のペーパーウエイトの製作実績があり、金属の精密加工を得意とする地元メーカーのキョーユー社があたりました。しかし、石は材質が一様ではなく、円形に加工する際に欠けや割れが発生してしまう。また、薄くすることが難しく、切削の際に膨大な粉塵が出るなど、平盃の加工には多くの問題が生じました。
そこで、硯加工のノウハウを持つ、雄勝硯生産販売協同組合に協力を依頼。石の目利きや加工技術などのアドバイスを得て、試行錯誤の末に最適な加工技術にたどりつきました。
さらに、摩擦学を専門とする東北大学大学院の教授が、酒器として重要な最良の口当たりを導き出し、計算された最高の飲み口を併せ持つ極上の酒器が生まれました。
伝統技術と最先端技術、大学などの力を行政支援のもと融合した地域産学官連携から生まれた「雄勝の濡れ盃」は、伝統工芸を最新技術で再生させて伝えていく試み「先端技術工芸品」と名付けられ、製品の高いクオリティのみならず、伝統工芸の新たな可能性を示した好例として、国内外で注目を浴びています。
■製造工程

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