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酒造りに理想の精米「超扁平精米技術」

従来の精米方法で無駄に削っていたデンプンを残しつつ、玄米の外層部をまんべんなく取り除く理想的な精米技術を開発。日本酒に新たな付加価値を創造しました。

球形に削る酒造りの精米方法

酒は、麹が米のデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールと炭酸ガスに変えるはたらきによってつくられます。

米の胚芽や外層部にはタンパク質や脂質、ミネラルなどが多く存在しますが、麹菌や酵母の生育を急進させ、発酵のバランスを崩し、酒の着色、雑味の原因となってしまうため、精米でこれらの成分を取り除きます。

しかし、単に外層部を取り除けば良いというものではなく、華やかで繊細な香りにするには高度な精白、旨みのある酒を醸したい場合は中程度の精白が適すなど、どの程度精米するかが酒の香味を決定づける非常に大切な要素となっています。(※1)

従来の精米方法では、精米時に米が短軸を中心として乱回転する傾向が強く、長軸側がより多く削られ、米は球形になります。この方法では、味わいを左右する心白に多く含まれるデンプンを無駄に削る反面、短軸側はあまり削れずに不要な成分が残りがちでした。

※1:精白とは、玄米を磨いて糠や胚芽を取除くこと。取除く量が多い(残った白米が小さい)のが高精白である。

扁平に削る理想の精米を実現

宝暦2年(1752年)創業の大七酒造 十代目当主・太田英晴社長は、1993年に扁平精米に関わる論文に出会い、超扁平精米技術の開発に乗り出しました。

玄米の外層部を均一に除去するための工夫を繰り返し、極限まで扁平に精米することで不要な成分は徹底的に除去しつつも酒造りに有用なデンプンは無駄なく残す「超扁平精米技術」を確立。

この「超扁平精米技術」で精米した米からは、アミノ酸が少ないすっきりした吟醸タイプの酒ができあがります。

普通精米と超扁平精米の純米吟醸を試験醸造し比較したところ、超扁平精米は普通精米と比べ、雑味やくどさにつながるアミノ酸が25%ほど少なくなり、すっきりした香り高い酒質となりました。

また、普通精米の酒よりも保存性に優れており、日光着色試験では劣化を示す日光臭はほんのわずかで、さらに10年貯蔵した比較では、超扁平精米の酒は着色が少なく、香りや味わいの変化も少ないという結果が得られました。

この超扁平精米と伝統の醸造技術で生み出す大七酒造の酒は、生酛造り純米大吟醸で2度にわたり全国新酒鑑評会金賞を受賞。国際的には2008年の洞爺湖サミットの首脳夫人晩餐会、オランダ王室晩餐会で乾杯酒として提供されるなど、国内外で高い評価を受けています。