製造現場におけるSDGsの取組み

需要性が増しているSDGs

SDGs(エス・ディー・ジーズ)への取組みの重要性が増しています。製造業においても、世界共通課題である「より良い地球を目指していく」ことが志向されており、製造現場におけるSDGsの取組み強化が進められています。

SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」を指します。2030年までに持続可能な社会をつくるために、世界共通の取組むべき目標を規定したもので、17のゴールと、その達成に向けた169のターゲットが設定されています。SDGsは2015年9月にニューヨークで開催された「国連持続可能な開発に関するサミット(国連サミット)」で、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として、すべての加盟国の全会一致で採択されました。

SDGsの課題

SDGsの17のゴールは、いずれも製造業にとって積極的に取組むべき重要な課題となっていますが、中でも、電子部品メーカーなどエレクトロニクス各社が重要視しているテーマとして、気候変動対策やイノベーションによる社会貢献などが挙げられます。具体的には、工場で使用する電力の100%再生可能エネルギー(RE)への置き換えを進めるとともに、省エネ・リサイクルの推進などにより、CO2排出量の段階的な削減に力が注がれています。

最近の取組み

環境に関する先進的な取組みで知られる米アップル社は、グローバルサプライチェーンに対して、「2030年までに100%再生可能電力で事業を行うこと」を要請しています。このため、iPhoneなどのアップル製品向けに部品を供給するサプライヤーは、2030年までに事業活動に使用する電力を100%RE化することが求められ、対応を急ピッチで進めています。

電子部品製造における省材料化や材料リサイクルの取組みでは、省材料化の一つとして、金めっき工程での金の使用量を低減するため、必要な部分のみに金を使用する「省金めっき技術」の高度化が図られています。プリント配線板工場では、めっき工程で使用されるパラジウムの工程後のリサイクルも行われています。水使用量削減、生産設備の高効率化による製品生産単位あたりのエネルギー消費量削減も重視されます。同時に、電子機器・システムの高効率化を実現する省エネ貢献部品の技術開発、太陽光発電システムや電気自動車(EV)、蓄電池システムなどの環境関連製品の普及拡大をサポートする新たな電子部品開発も取組まれています。

近年は世界的な若年労働者不足への対応のため、工場の生産ラインの自動化・省人化を課題としているメーカーが多い中、こうした取組みは、SDGsの目標の一つである「働きがいも経済成長も」に向けた「働き方改革」の一環としても重要です。各社が主力工場を展開する中国では、近年、夜間時間帯の稼働率低下が課題となっています。最近は若年労働者の意識の変化から、深夜勤務を避ける傾向が強まっているといわれますが、働き方改革の点から、工場側が深夜勤務を強要することは困難になっているとされます。その結果、24時間稼働の工場であっても、日中と比較し、深夜帯には生産性が極端に低下するという課題を抱える工場も多いのが実情です。こうした課題の解決のため、生産工程での自動化比率を引き上げることで、安定的な生産性を得るための取組みがなされています。同時に、作業に危険が伴う工程や、人が苦痛を感じるような製造工程や検査工程をマシンに置き換えることで、「工場での事故ゼロ化」を目指し、安全・安心で働きやすい職場環境づくりが志向されています。日本の電子部品業界は、大企業に限らず、中堅・中小企業を含め、グローバルな事業を展開している企業が多いのが特徴です。このため、多くの企業が、SDGsのゴールに掲げられる「人や国の不平等をなくそう」の方針に沿って、「すべての差異を大切にし、すべての意見に耳を傾ける企業文化の強化」を打ち出しています。同様に、「ジェンダー平等を実現しよう」もグローバル経営における重要テーマに掲げられています。

化学業界では、SDGsの「飢餓をゼロに」の達成に向け、地球温暖化防止と世界の食糧問題解決を両立するためのサステナブルな化学品製造プロセス技術の開発に力を注いでいます。その一つに、「非可食バイオマス由来プロセス技術」があります。消費者庁によると、世界全体での飢餓や栄養失調に苦しむ人の数は約8億人に達します。世界人口は今後も増加するため、飢餓問題は一段と深刻度が増していくことが予想されます。近年は地球温暖化防止に寄与する技術として、トウモロコシやサトウキビなどの可食バイオマスを自動車燃料などに使用する試みがなされていますが、こうした可食バイオマス由来燃料の増加は、人が摂取できる食物を奪うことになるというデメリットがあります。そうした中で、化学メーカーである東レは、非可食バイオマスを原料とした工業製品開発のための研究開発を強化しています。一例としては、植物の茎など人が食べられない部分から得た糖を原料に活用し、通常は石油から精製される樹脂原料を作り出す技術などが開発され、早期の実用化に向けた研究が進んでいます。また、「食品ロス」問題への対応も重視されます。消費者庁によると、全世界の年間食料廃棄量は約13億トンに達するとされますが、これに対し、化学メーカーは、ガスバリア技術の食品分野への適用を進めています。食品包材に最適化されたハイガスバリアフィルム開発を通じ、食品の消費期限延長を図ることで、食品廃棄率を減少させることが志向されています。

世界的なカーボンニュートラルの重要視

最近は、SDGsの目標に掲げられる「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「気候変動に具体的な対策を」につながる取組みとして、カーボンニュートラルが世界的に重視されています。2020年以降、各国政府から「カーボンニュートラル達成」に関する長期目標が打ち出され、日本でも2020年10月に当時の菅首相が「2050年までのカーボンニュートラル達成」を宣言し、2021年には「2030年度に、温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指す」という目標が表明されました。現在、欧米など多くの国で、「2050年までのカーボンニュートラル達成」が目標に設定されています。こうした動きに対応し、日本の製造業各社も、カーボンニュートラルに関する自社目標を設定し、中長期のロードマップに沿った取組みを進めています。多くの日本企業が工場進出している中国は、カーボンニュートラル達成目標時期が「2060年」であるため、日本や欧米よりも目標が緩やかに見えますが、「将来、目標時期が修正される可能性もある」との見方をする関係者も多くいます。最近の中国では、政府による環境重視の姿勢が一段と強まっており、また、中国の特徴といえる「政府の意思決定の速さ」から、企業に対する環境関連の新たな規制ルールが短い周知期間で発表される可能性もあります。このため、中国に工場進出している日系企業では、現地政府の環境方針に関する情報収集に全力をあげるとともに、将来を見据え環境方針の変化を先取りした体制づくりを前倒しで進めています。

SDGsの目標期限である2030年まで残り10年を切りました。日本のモノづくり産業には、持続可能な社会の実現に向け、SDGsへのより積極的な取組みが期待されています。

[電波新聞社 トレンド報告]