EV充電市場の現状と展望

進む充電インフラ整備

近年、EVの普及とともに充電インフラが課題になっています。従来、EVの充電には長時間を要する場合があり、利用者のハードルとされてきました。しかし、急速充電技術の進化などもあり、充電ステーションの設置や充電時間の短縮などが進んでいます。

経産省は、8月末にEV向け充電設備について2030年の設置目標を従来から倍増させる方針を明らかにしました。政府は、2035年までに全ての新車販売を電動車(ハイブリッドを含む)にする計画でインフラ整備を急いでおり、ロードマップとして10月に正式決定される見込みです。

従来のグリーン成長戦略では、2030年までに急速充電器3万基を含む計15万基を整備する目標を掲げていましたが、今回の経産省の方針では、1基で複数のEV車を同時に充電できるタイプも増えていることを踏まえ、数え方も「基」から「口」に変更。目標とする30万口のうち、商業施設やマンションなどに設けられる普通充電器は27万口、高速道路などに設けられる急速充電器は3万口を目指す方向です。

また、急速充電の速度向上も目指し、取組みを進めています。特に充電器の高出力化は、充電時間短縮につながる一方、設置費用の高騰や充電料金の値上りにもつながり、ユーザーに影響を及ぼします。

ユーザーの立場で長短を考慮しつつ、最適な出力の充電器が整備されるよう推進されます。まずは、高速道路での150kW級の急速充電器の整備を強化する方針です。他方、欧米では350kW級などの超急速充電へ拡張の可能性を考慮した議論もあることから、今後世界の動きにも注目です。

調査では、普通充電器は現状、出力19kW未満、特に3kW・6kWが主力。設置費用は数万円から数十万円。固定費も年数万円前後からとなっています。一方、急速充電器はこれまで50kW未満が中心。しかし、昨年度に高速道路に設置された111口のうち98口は98kW以上になり、設置費用は数百万円から数千万円。維持・固定費も年100万円以上となっています。

また、充電料金は利用時間に応じての課金が多いものの、電力量に応じる「従量課金制」の普及も目指します。従量課金制の実現に必要な投資を考慮し、特に、高出力充電器での従量課金を優先的に進める方向となっています。

通信も

また、通信も課題になっています。公共にある特に課金サービスが必要な急速充電器や普通充電器については、EVを広く普及する観点から、自動車ユーザーにとって利用しやすい形態であること、充電事業者と接続されていることが重要です。充電事業者が変わった際に、クローズドプロトコル通信である場合、専用端末などを用意する必要や、充電器に接続できない状況が発生しえます。
そこで、経産省では①充電事業者が変更されても、充電インフラを引継ぎ接続できるよう、また、②不具合などが発生した際に、遠隔で管理・運用できるように、 国内で整備される公共の充電器についてはオープンプロトコルである通信規格を標準的に持つことが望ましいとされています。経産省は、欧米における標準化の動向、国内事業者のニーズを踏まえて、2025年度からオープンプロトコルであるOCPPの通信規格を推進することにしています。

V2H

さらに、EVの急速充電技術と車から家庭へ電力を供給するV2H(Vehicle to Home)技術の進展が業界と消費者の注目を集めています。V2H技術は、車の走行用途だけではなく、EV車のバッテリーを家庭の電力供給源として活用する取組みであり、停電時やピーク時の電力需要をカバーする一手段となります。この技術により、EV所有者はバッテリーの余剰電力を家庭へ供給し、エネルギーコストの削減や持続可能な電力利用を実現できます。

規格競争

EV充電規格の動きもEVの普及と充電インフラの発展に伴い進化してきました。充電規格は主に、次の4つがあります。

1. CHAdeMO(チャデモ)
日本発の充電規格。急速充電を提供し、一般的に日本の自動車メーカーが採用。現在も対応する製品の開発が進められています。CHAdeMO協議会が、日中共同で規格制定を進めているChaoJi(チャオジ)もあります。

2. GB/T
中国の充電規格。中国国内での公共充電器設置が急速に増加しています。

3. CCS(コンボ・コネクタ・システム)
欧州や米国の自動車メーカーに支持されてきた充電規格。急速充電と、AC充電(低速充電)の両方をサポートし、多くの新しいEVがこの規格を採用しています。

4. NACS(スーパーチャージャー)
テスラは独自の充電ネットワークを構築し、スーパーチャージャーと呼ばれる高出力の充電ステーションを提供。テスラ車専用に急速充電を可能にしつつ、北米市場を狙う自動車メーカーや充電装置メーカーに同規格の採用を訴えてきました。これに呼応し、欧米の自動車メーカーで採用の動きが相次ぎ、デファクトスタンダードが目指されています。

例えば、EV新興の米フィスカーが北米市場でNACSを採用。対応するアダプターを使ってスーパーチャージャーにアクセスできるようにすると発表しました。同時にCCS対応アダプターを取付けることで、CCS規格でも引き続き充電できるようにします。

フィスカーがNACS方式採用に合意したことで、スーパーチャージャーを利用できる自動車メーカーは、日本勢からは日産自動車や9月に新対応を発表したホンダ、また、フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ(GM)、ボルボ・カーズ、ポールスター、リヴィアン、メルセデス・ベンツといった8社になっています。(9月初め時点)

また、テスラは充電機器メーカーへのライセンス供与にも取組んでいます。米ブリンク・チャージングにも権利を与え、自社の240kWDC急速充電器にNACS規格のコネクタを搭載するようにしてもらうとともに、同様の供与をボレックスに対しても行っています。しかし、こうした充電規格の統一化が進む一方で、一部の車種は複数の充電規格をサポートするなど、柔軟に対応する必要性も増しています。
経産省は充電インフラ補助金について、22年度の補正や23年度の予算でも盛り込んでいます。24年度の予算の策定作業も年末に向けて進む見込み。政策支援の動向や自動車各社の動きも踏まえた戦略が必要になりそうです。

[電波新聞社 トレンド報告]