カーボンニュートラル実現に不可欠な二次電池
世界的な脱炭素の流れを受け、政府は2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)の実現を目指しています。カギを握るのが、充電して電気をためておける二次電池(蓄電池)。目標達成には低コストで効率的な蓄電池を用いたエネルギーの有効利用が欠かせません。
市場の拡大
電気自動車(EV)の普及に伴い、車載用蓄電池市場は急拡大しています。パソコンやスマートフォン向けの小型蓄電池のほか、データ量の拡大に伴い、高速通信規格5Gなど通信基地局やデータセンターのバックアップ電源としても利用が増加しています。
太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入量も拡大していますが、再生可能エネルギーは天候などの影響で発電量が大きく変動。そのため、電力の安定供給には再生可能エネルギーで発電した余剰電力を蓄える定置用蓄電池の重要性も増しています。
それ以外にも、送配電会社の送配電網につながる電力系統用、工場や施設などの産業用、家庭用など蓄電池市場は拡大しています。経済産業省によると、車載用・定置用を合せた蓄電池の市場規模は2019年の約5兆円から30年は約40兆円に、50年には約100兆円に成長すると予想されています。
現在の状況
二次電池の一つ、電極に鉛を用いた鉛蓄電池は、原料が安価で放電性能も安定しています。自動車用バッテリーのほか、ビルやデータセンターなどに設置される非常用バックアップ電源である無停電電源装置(UPS)、工場で稼働する電動フォークリストなどで活用されています。
このほか、過充電に比較的強いニッケル水素電池などさまざまな蓄電池が存在しますが、現在、急速に普及が広がっているのがリチウムイオン電池(LIB)。エネルギー密度が高く、小型化や高出力化に対応できるのが特長です。スマートフォンやノートPC、ワイヤレスイヤホンなどのコンシューマー製品で幅広く使われていますが、特にEVの駆動用電池として非常に期待されています。
LIB市場は日本、中国、韓国の東アジア3カ国でほぼシェアを独占。特に車載用LIBは3カ国で9割以上を占めますが、補助金や税制上の優遇策など政府が蓄電池産業を大規模に支援する中国・韓国の追い上げで、近年、日本のシェアは低下傾向にあります。
LIBは主に正極材、負極材、電解液、セパレーターから構成。これら部材はリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンといった原料から作られますが、こうした鉱物資源は希少金属であり、産出は特定国に偏在。日本は資源の多くを輸入に頼りますが、負極の原料となる黒鉛は約9割が中国からの輸入です。その中国は最近、黒鉛の輸出規制を打ち出すなど既にリスクが顕在化しています。電池を安定生産・供給するためには鉱山権益の確保が重要で、経済安全保障の観点から、調達先の分散化を模索する動きも出ています。
米中貿易摩擦やウクライナ情勢なども背景に、供給が途絶えた際には国民生活や経済活動に甚大な影響を及ぼす恐れがあることから、蓄電池は今、優先的に安定確保を図るべき「戦略物資」として再定義されています。22年末、経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」に半導体とともに指定。蓄電池はデジタル社会・脱炭素社会の重要物資として注目されています。
23年における自動車向け駆動用二次電池の世界市場は、前年比約33%増、21兆9153億円の見込み(鉛電池、ニッケル水素電池含む。富士経済調べ)。EVの需要増加に伴い市場の急拡大が予想され、50年には同4倍超の72兆4961億円に達するとみられています。
供給量の飛躍的拡大に伴い、今後は使用済み蓄電池が大量に出現することになります。再利用したり、定置用蓄電池として再活用したりするなど、リサイクルは早急に取組むべき課題です。欧州では、事業者に対して電池回収を義務付けしたり、電池製造時に一定のリサイクル材の使用を求めたりする流れです。電池自体の回収量を増やすとともに、蓄電池材料の効率的なリサイクル技術の確立が必要です。同時に、使用済み電池の残存価値を適切に評価する仕組みの構築は、中古・新品EV市場の生成・拡大にとっても重要と考えられています。
競争の激化
次世代の蓄電池として「全固体電池」(全固体リチウムイオン電池)も開発が進んでいます。電解質に固体を用いた電池で、現在主流の液系LIBより発火の危険性が低いのが強み。小型化が可能でエネルギー密度を高められるため、EVの航続距離を大幅に伸ばせる可能性があります。急速充電ができ充電時間も短縮できるなどのメリットから、電池メーカーのほか、自動車メーカーも開発に力を入れるなど競争が激化しています。
EV向け以外にも、一般産業や医療分野など幅広い用途で使えるよう円筒形やコイン型の全固体電池も開発されています。全固体電池の市場規模は40年に3兆8605億円と試算(富士経済調べ)。本格実用は20年代後半から開始される見込みです。
全固体電池はLIB同様に日本が基本技術の確立に大きな役割を果たし、開発を主導してきましたが、近年は中国の特許出願数も急増し、追い上げが始まっています。早期に量産体制を築き、国際競争力を高めることが求められています。
[電波新聞社 トレンド報告]