
施設の防犯対策の見直しを

銅をはじめとした金属窃盗の被害が年々拡大しています。銅をはじめとした金属窃盗の被害が年々拡大しています。警察庁によると、金属窃盗の被害件数は統計を取り始めた2020年の被害件数が約5,500件だったのに対し、2023年は1万6,276件以上と約3倍に増加。2024年は1月から6月までの暫定値ながら1万758件に達しているほどです。

金属窃盗が多く発生しているのが、太陽光発電施設です。2023年は32.9%、2024年は38.7%(6月暫定値)と、全体の3割から4割近くを占めています。
品目別の被害状況を見ると、一番被害が多かったのは金属ケーブルで、2023年は全体の54.8%で盗まれた被害が報告されています。材質別に見ると、銅の被害報告が一番多く、全体の51.8%に当たる8,437件で銅が盗まれています。2023年の被害総額のうち、銅の被害額は約97億7,900万円と、全体の約7割を占めます。
金属窃盗が特に多い地域が関東地方です。警察庁の発表によると、2023年に最も多くの被害が報告されたのが茨城県で2,889件。以下、千葉県(1,684件)、栃木県(1,464件)、群馬県(1,437件)、埼玉県(1,173件)と続きます。
被害件数の多さと太陽光発電施設の設置数には少なからず相関性があるとみなすことができます。資源エネルギー庁が2023年12月に公表した都道府県別発電所数を見ると、全国には3,959カ所の太陽光発電施設がありますが、被害件数最多の茨城県は、太陽光発電施設の設置数が全国トップの295カ所です。このほか、千葉県、栃木県、群馬県とどこも被害件数の多い関東地方の各県は、100カ所以上に太陽光発電施設が設置されています。
だからといって関東以外は安全というわけではありません。関東以外でも100ヵ所以上設置されているのは北海道、宮城県、福島県、三重県、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、福岡県、熊本県、鹿児島県など1道10県あり、いつ狙われてもおかしくない状況です。

主な被害例
太陽光発電施設が狙われやすいのは、人目につきにくいところに設置されていることが多いことと、銅線ケーブルが多く使われているからです。夜間であれば発電しておらず感電リスクがないことも狙われやすい理由になっています。
銅線ケーブルが狙われるのは、銅価格が高騰を続けているためです。日本電線工業会によれば、1トンあたりの国内の銅価格は2019年度が69万円なのに対し、2024年度上半期は149万円。犯行グループは盗んだ銅線ケーブルを金属買取り業者に売り、不当に利益を得ることを目的にしています。
ここ数年発生した主な金属窃盗事件をいくつかご紹介します。
1.群馬県ほか(2022年7月〜2024年1月)
同県ほか福島、栃木、埼玉、千葉、山梨、静岡、長野の全8県で太陽光発電所114カ所から銅線ケーブルを窃盗。被害総額は3億円を超えるとみられる。犯人グループは逮捕されている。
2.山梨県甲州市など(2023年1月〜2024年4月)
同市と群馬県前橋市の太陽光発電施設2カ所から銅線ケーブルを盗んだ疑いで外国籍の男3人を逮捕。甲州市では約1,800m(762万円相当)、前橋では約1,020m(173万円相当)が盗まれている。逮捕された3同県や群馬県内の5カ所の太陽光発電施設からも銅線ケーブルを盗んだとして追送検。5カ所で盗まれたケーブル長さは約3,200mで、被害額は1,750万円に達する。
3.群馬県高山村(2024年4月)
同村の太陽光発電施設から銅線ケーブル約6m(2万円相当)を盗んだとして外国籍の男2人を逮捕。2人はこのほかにも、2023年6月から2024年5月頃にかけて同県や栃木県、埼玉県の太陽光発電施設から銅線ケーブルを盗む事件を合せて319件起こしていたことが確認されており、これらの被害総額は2億1,000万円余りにのぼるといわれている。
4.東京都日の出町(2024年5月)
同町の太陽光発電施設から銅線ケーブルが約840m盗まれる。被害額は193万円相当。外国籍の男ら4人が逮捕されているが、容疑者らは1都7県で60件以上の窃盗に関与したとされており、被害総額は1億円を超えるとみられている。
5.石川県羽咋市(2024年8月)
同市の太陽光発電施設から送電用銅線ケーブルが盗まれる。被害は重さ8.4トン分で、728万円相当になる。群馬県在住の外国籍の男3人が逮捕。
被害を未然に防ぐには?
では、狙われやすい太陽光発電施設は金属窃盗に備えどのような対策を打つべきなのでしょうか? 警備・セキュリティ対策大手の総合警備保障ALSOKは、太陽光発電施設での銅線ケーブル盗難対策として、定期的な見回り、フェンスや柵の設置、防犯カメラの設置、センサーライトの設置、「警戒中」・「防犯カメラ作動中」・「定期巡回中」など警戒していることを示す看板の設置、機械警備の導入、使用していない銅線ケーブルを鍵のかかる部屋に保管することなどを挙げています。

太陽光発電施設はもとから施設周辺にフェンスや柵を設置していると思われますが、今一度点検し、場合によっては頑強なものに変更することも必要でしょう。フェンスや柵を強引に破壊して内部に侵入するケースもありますが、それでもフェンスや柵の存在は侵入を防ぐ有効な手立てです。警戒していることを示す看板の設置は、外国籍の犯人が多いことを踏まえ、多言語で表示することにより抑止力が高まります。警察と連携していることを知らせることも効果的です。センサーライトについては侵入者の存在に気づくきっかけになるほか、犯人に心理的なプレッシャーをかける効果もあります。
これら以外の対策としては、銅線ケーブルを地中に埋設したりコンクリートで固めることで引き抜けないようにすること、銅より取引価格が低いアルミケーブルなどへの変更も、窃盗被害の抑止につながります。盗んだ銅線ケーブルは自動車に積んで持ち出すことから、車両の侵入を防ぐバリカーの設置や、ケーブルの敷設に使うハンドホールをコンクリートで覆うといった対策も効果的です。また、銅線ケーブル全体を覆い物理的に切断できないように保護する金属製プロテクターなども発売されており、施設環境に合せた対策が必要です。
ここで挙げた対策は既に実施済みのことも多いかもしれませんが、あらゆる手段から被害を最小限に抑えるためにも事前対策は大切です。今一度、施設全体の防犯対策の見直しが必要です。
[日刊工業新聞社]