生産現場の省力化

製造業の人手不足

少子高齢化を背景に、製造業の人手不足が深刻化しています。経済産業省の2022年版「ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は2002年からの約20年間で157万人減少しました。この間、製造業の若年就業者の割合は31.4%から25.2%に減少、逆に高齢就業者は4.7%から8.7%に増加しています。製造業で働く人の数が減るとともに高齢化が急速に進行していることが分かります。

省力化に向けた実践

生産現場では省力化に向けたさまざまな実践が見られます。多くの企業が試みているのが産業用ロボットの採用。最近は、これまで導入が難しかった作業での適用も広がりつつあります。例えば、ハーネスと呼ばれる機器と機器の間をつなぐ電線。自動車や医療機器、家電など幅広い用途があります。リード線の先端に端子やコネクターを接続して作りますが、先端の被覆を削り取って端子をはんだ付けしたり、工具で圧着するなど細かな作業が要求されます。しかも非常に多くの種類があるため、自動化が進まない工程でした。

さまざまな問題点

近年はパート労働者の確保も容易ではなく、時給の上昇も中小事業者にとって悩みの種です。そこで、端子を圧着する機械にリード線を差込む工程でロボットを活用することが考案されました。複数の電線を束にするため、ハーネスの先端の向きはばらばらです。特殊なセンサーがこの向きや曲がりを認識することで、熟練の技能を要した工程を自動化することに成功しました。圧着時間は手作業とほぼ変わりません。休憩時間も不要なため、手作業からの代替と生産の効率化が実現しました。

熟練作業員はいずれ引退の時期を迎え、製造現場では技術やノウハウの継承が喫緊の課題となっています。VR(仮想現実)で製造や保守点検の作業者を遠隔から指示・指導したり、工作機械にAI(人工知能)を搭載し、熟練技能者が経験で判断・制御していた切削時の微妙な加工状態を自動で判別するなど、新しい技術を用いた取組みも始まっています。デジタルトランスフォーメーション(DX)で運用保守、在庫や品質の管理など製造業の効率化を支援する「スマート製造」のほか、通信遅延が少なく、映像など大容量のデータを高速でやり取りできる最新の通信規格「5G」を用いてロボットや機器を高精度に制御し、生産の自動化を進める動きも活発化してきました。

特にAIなどのデジタル技術を活用した生産の効率化には大きな期待が寄せられています。すでにAIが工場を自動で制御する技術も現実化しつつあります。石油や天然ガスなどの原料を精製して製品を製造する化学工場。原料の組成は産出地で異なる上、化学反応を伴うため爆発の危険もあり、温度や圧力、流量などの精緻な制御が求められます。屋外プラントでは強雨や風雪、落雷、気温の急激な変動といった気象条件をはじめ、制御で考慮すべき非常に多くの要因が存在します。複雑なプラントの制御は人のスキルや経験に大きく依存しているのが現状です。

合成ゴムの原料となるブタジエンは、原油を加熱してナフサから精製します。熱源のコントロールは、純度を上げて最終製品に仕上げる重要な工程で、これまでは作業員が手動で調整していました。ここにAIを適用。複数のバルブ操作をAIが制御し、加熱して理想的な状態で効率的に物質を取出すことが可能になりました。作業員による操作にはばらつきがありましたが、手動の操作を減らすことで良品だけを安定的に生産できるようになります。規格外品が発生して加熱をやり直すことで発生する燃料や人件費、時間的損失の低減を図ることができます。工場の各所に配置した温度や圧力を測定するセンサーから収集した数値と作業員の操作履歴をAIが学習して自動運転を実現する機能も実用化されています。

今後の解決策

すでに日本は人口減少社会に突入し、移民労働を解禁しない限り、就業者の減少に対する抜本的な解決は望めそうにありません。長年、日本の産業を支え続けた団塊の世代が大量退職する「2007年問題」からすでに15年。少子化の流れは歯止めがかかるどころか、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた結婚や妊娠の減少でますます加速しています。徹底した省力化で労働力の不足を補うことは生産効率を高めて収益性を上げる方策であるだけでなく、日本の製造業が生き残るために必須の取組みになっています。

[電波新聞社 トレンド報告]

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