医療用部品の最新動向

電子部品業界では、医療関連機器市場を中長期の事業拡大のための重点分野に位置付ける企業が増加しています。医療技術を進化させていくためには、より高度な医療機器や医療システムの開発が欠かせません。それを支える要素技術として、医療用コンポーネントの重要性はますます増していくことが予想されています。

少子高齢化の進展と医療技術の進歩

先進国を中心に世界的な少子高齢化が社会問題と化しています。中でも韓国などと並んで世界最速ペースで少子高齢化が進展する日本では、医療技術の進歩が一層求められています。

医療機器市場の裾野は広く、病気の診断や検査、治療、手術、画像・映像関連機器をはじめ、人口関節や人工骨などの医療器材、歯科材料、介護・アシスト用ロボットなど様々な分野が存在します。さらに、外科手術時に医師の負担を軽減するための機器や、在宅医療・遠隔医療用インフラ、AED(自動体外式除細動器)などがあります。

その中でも、日本の電子部品メーカーが特に重視しているのは、先端医療における検査・治療機器や手術機器です。特に、微細な病変を発見するための高精細な画像撮影分析装置や、患者の身体的負担を軽減する「低侵襲治療」では、最先端のデバイス技術が要求されています。

例えば、医療用カテーテルの先端や側面に取付けるセンサーデバイスは、超小型かつ高精度の両立が求められています。

こうしたニーズに応えるため、電子部品メーカーでは、微細精密加工技術やMEMS技術を活用した超低侵襲型圧力センサーの開発を進めており、最小のチューブと針に適合する米粒大よりはるかに小さい超小型製品が開発されています。カテーテルの超小型・高性能化を実現することで、治療時の患者への負担を軽減し、治療後の患者の回復を早めることにも役立ちます。

低侵襲治療用デバイスの一例として、体内の埋込み型医療機器の位置を可視化できる「体内医療機器位置検知ソリューション」も開発されています。体内に埋込まれた医療機器を体外から非接触で給電して発光させることで、体表からその位置を識別できるシステムです。これにより、例えば抗がん剤治療でカテーテルで薬剤を投入する際などに、X線や超音波診断などを行うことなく、目視のみで目的位置を識別できるため、安全に低侵襲医療を導入できる技術として期待されています。

医療用画像分析分野では、医療用モニターや内視鏡システムなどで超高精細の「8K」の活用が進んでおり、電子部品メーカーの8Kテレビ用部品の技術が活かされています。8K内視鏡システムでは、従来は識別が困難だった、より微細な病変を発見することが可能となり、病気の早期発見に貢献します。遠隔医療でも、8Kによる高精細画像やリアルな色表現が、的確な診断に寄与するものとして期待されています。

また、医療分野での8K活用の一例として、大学病院での医学教育のため、外科手術の様子を8K医療モニターを通じて医学部生がリアルタイムで視聴するなどの活用事例もあります。名医による微細な血管縫合技術などを高精細な画像で体験することで、技術伝承が指向されています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の増加

近年は、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の増加が、社会問題になっています。SASは、睡眠中に呼吸が停止、または弱くなる状態が頻繁に起きる病気で、SASに罹患すると日常的に睡眠の質が悪くなります。そのために、日中に強い眠気や疲労が生じ、車の運転中に突然意識を失って事故を起こす危険性などが指摘されています。このため、物流企業や交通関係の企業では、SASの早期発見のため、長距離トラックのドライバーやバスの運転手にSAS検査を義務付けるケースも増えています。

日本には現在、SASの治療中の患者が65万人程度いるといわれていますが、SASが疑われるSAS潜在患者数は400万人以上に達するといわれ、さらに、欧米の著名な医学系学術雑誌 Lancetの2019年の報告では、日本のSAS潜在患者は940万人を超えるとの予測がなされています。

しかし、通常のSAS簡易検査では、パルスオキシメーターを一晩装着してデータを取得し、それを専門機関で分析してもらうため、分析結果受領まで1ヵ月程度がかかります。パルスオキシメーターを装着することによる寝返りが打てない煩わしさ、検査キャパシティに限りがあること、検査費用の高さなども課題となっていました。

これらの課題を解決するため、電子部品メーカーでは、オープンイノベーションの手法により、SASリスク可視化技術を活用した専用アプリの開発が進められています。自身のスマートフォンなどのマイク機能で就寝時の音声を録音するだけで、手軽に即日でSASの重症度のリスクレベルを判定できるというものです。

このほか、パルスオキシメーターを使用したSAS検査の利便性を高めるため、Bluetooth®やNFCなどのワイヤレス通信機能を搭載した通信機能付パルスオキシメーターも開発されています。

日本の電子部品メーカーの技術

MRIやCT、超音波診断装置などの医療用画像系装置は、日系医療機器メーカーがグローバルで高いプレゼンスを持つ分野ですが、これらの分野でも日本の電子部品メーカーの技術が活かされています。

電子部品メーカーの医療機器市場向けビジネスは、かつては既存の産機用部品を横展開するケースが主体でした。このため、医療機器メーカーは、FA機器向けなどに製造販売されている産機用部品を、そのまま医療機器設計に活用していた場合が多かったのですが、近年は医療機器向けに特化した専用部品を標準品として品揃えする部品メーカーが増加しています。これらの部品メーカーでは、医療機器業界の品質規格を満足するISO13485認証取得工場での生産による、高品質なモノづくりを追求しており、医療機器の開発リードタイム短縮に役立っています。

また、高度医療分野向け技術開発のため、医療に知見を持つ大学や研究機関との協力や国内外スタートアップ企業との連携も活発となっています。市場別では、世界の高度医療分野をけん引する米国系有力医療機器メーカーとの密着を図るための体制作りに力が注がれています。

医療機器分野はあらゆる工業機器の中でも最も高い信頼性が要求される分野の一つです。そして今後のイノベーションに向け、無限の可能性が広がっています。高度な電子部品技術を通じた医療技術の一層の発展が期待されます。

[電波新聞社 トレンド報告]