災害に立ち向かう防災DX ― 能登半島地震で見えた課題と教訓 ―

近年、頻発・激甚化する自然災害に効果的・効率的に対応するため、防災の分野でもDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取組みが進んでいます。デジタルツールで災害時に従業員や家族の安否を確認したり、被災状況の確認や支援物資の搬送にドローンを利用したりと、防災DXは大きなメリットが期待できる一方、うまく使いこなすための課題も指摘されています。大規模災害が発生すれば、被災状況や避難所・避難者の情報など把握・管理しなければならない膨大な情報が生じます。それらを的確に取扱うことができれば、早期支援・早期復旧にもつながります。2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」では防災DXの課題にも直面しました。

能登半島地震の被害の様子(石川県輪島市)。家屋の倒壊や火災、津波などさまざまな災害に見舞われた。(撮影・日刊工業新聞社)

大規模化・複雑化する災害対応にデジタル技術が不可欠
紙文書などのアナログデータをデジタル化し、人手作業やアナログ的なやり方を、デジタルツールなどを用いた手法に置き換えて自動化・機械化した上で、蓄積したデータを分析・活用することにより、業務プロセスや仕組みを改善し“変革を起こす”ことを一般に「DX」と言います。

DXは防災の現場にも欠かせません。防災科学技術研究所(防災科研)総合防災情報センター長の臼田裕一郎さんは、「激甚化・大規模化する自然災害への対応力を強化するためには、DXを促進することが必要ですが、DXの手前の段階でつまずいている」と指摘します。

石川県能登地方を震源としたマグニチュード7.6の地震では、土砂崩壊や道路の陥没、沈下によって複数箇所で通行止めとなり、避難の孤立地域が生まれ、救助や物資支援においても困難を極めました。内閣府と防災科研による災害時情報集約支援チーム「ISUT(アイサット)」の一員として被災地に向かった臼田さんは、「DXの“浸透”と“定着”を強化していかなければならないと痛感しました」と話します。

例えば、避難所や避難状況の正確な情報をリアルタイムで把握すること。避難情報や指定避難所の開設状況などを発信するウェブサイト「石川県防災ポータル」には市町別の指定避難所が一覧になっており、地図上に避難世帯数や避難者数などが表示されます。しかし震災発生から2週間後に避難所ごとの情報を検索してみると、地震発生後に避難所が開設されて以降、更新されていないところもあり、情報の鮮度にバラツキがありました。おそらく災害対応に忙殺されて情報更新のマンパワーが不足していたと推察されます。

また、災害が発生するとあらかじめ指定された避難所以外にも自主避難所ができる場合がありますが、このような指定避難所以外の場所を「避難所」として認定するかの判断は自治体にあり、そう判断された場合には避難所データへの追加登録が必要となります。

避難所データは、物資支援や医療活動などを行う上で必要不可欠な情報源。「どこの避難所にどのくらいの住民が避難しているか」といった状況を把握できなければ、必要な人に必要な量の物資を届けることも難しくなります。

DXの肝となるデータ基盤構築と標準化が急務
データに信頼性が欠ければ、そのデータベースは役に立たないことは言うまでもありません。また、災害時に新たにデータベースを構築することがもう1つ悩ましい問題を発生させます。本来、あらかじめ基盤となるデータベースが存在し、それを災害時に活用していくことが望ましいことですが、実際には、それとは別のデータベースが複数発生するという事態が往々にして起こります。

例えば、能登半島地震においても市町が収集した避難所情報のほかに、被災地へ救助支援にあたった自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)が現地の状況をもとにした独自の避難所情報が存在しました。これには孤立集落や自主避難所など、市町が把握できていない情報も含まれます。

そこで、市町の避難所情報と、自衛隊やDMATがそれぞれ異なるシステムで管理している避難所情報の複数のデータベースを突合させて、「石川県総合防災情報システム」に集約。これが物資支援や医療活動などの大元となるデータベースとなりました。

これらの経緯は2024年1月13日の石川県の馳浩知事の記者会見で明らかにされました。「データベースこそDXの基盤であり、それを災害が起きてから構築するのでは対応に遅れが生じます。平時の段階で正となるデータベースを構築し、あらかじめ災害対応機関間で共有しておくとともに、災害時に自主避難所などを容易に追加登録できる共通プロセスを設け、誰でも取扱えるよう標準化しておくことが必要です」と臼田さんは強調します。

日本の防災DXの普及に必要なこと
2021年5月、内閣府が発表した「防災・減災、国土強靭化新時代の実現のための提言」の中で、「防災デジタルプラットフォーム」を基盤とした防災DXのあるべき姿として、プラットフォームに集約されたデータを官民開発の個別アプリケーションによって、災害予測、避難所やインフラ復旧などの情報の公開、災害時の方針立案支援などに展開していく情報・データフローが示されました。被害状況や災害発生箇所、インフラ状況など、国や地方自治体、指定公共機関などの災害対応機関が共有すべき重要情報は「災害対応基本共有情報(EEI)」としてまとめられています。災害が発生した時に、「どこが、どのデータを、どのようなルールで共有するか」を決めておくことが必要です。

臼田さんは「DXはデータ基盤がきちんと整備された上で変革を目指すものであり、整備されていなければ逆に余計に人手が必要となってしまいます。日本全国において、どこかがうまくできていたとしても、47都道府県全体がうまくいかない限り、わが国の防災DXとしては機能しません。防災DXを起こすためのデータ基盤を浸透、定着させることが全体の底上げになります」と、今後の課題を示しています。

[日刊工業新聞社]

災害現場で通用するドローンオペレーターの新たな資格

災害時や防災へのドローン活用が広がる一方で、ドローンを迅速かつ正確に操縦するオペレーターの確保が課題となっています。この課題解決のため、一般社団法人防災安全協会は新しい民間資格「防災ドローンオペレーター」を創設しました。

国が2022年12月に設けた国家資格「無人航空機操縦者技能証明等」には、「一等無人航空機操縦士」と「二等無人航空機操縦士」がありますが、いずれも平時におけるドローンを使う際の操縦技能を対象にしているため、災害時を念頭においた操縦技能を証明するものではありません。「防災ドローンオペレーター」は、二等無人航空機操縦者技能証明の知識と操縦技能に加えて、他の取得講座では学べない災害現場で役立つ知識と操縦技能を習得します(この講座を修了することで二等無人航空機操縦者技能証明の国家試験の技能試験免除が受けられます)。
カリキュラムには、被災地などの状況把握に必要な空撮、測量、赤外線動画撮影や物資の輸送に必要な産業機体の操縦などが含まれています。