第4次AIブームが生み出すデータセンターの建設ラッシュ 2030年までに世界で約760兆円の設備投資

生成AI(人工知能)の普及を端緒とする世界的なAIブームで、未曾有のデータセンター(DC)建設ラッシュが生じています。足元の「第4次AIブーム」は生成AIを動かすために必要なハードウェア整備が特徴で、ソフトウェア開発を主軸とした従来のブームとは性質が異なります。米マッキンゼー・アンド・カンパニーは、2030年までに世界で延べ5.2兆ドル(約760兆円、4月発表時点)のDC整備の設備投資が必要になると試算しています。日本でも各地でDC整備が熱を帯びており、冷却装置や電気設備など関連産業も活況を呈しています。

ハードウェア整備が勝負の決め手となる第4次AIブーム
生成AIの普及はIT業界の話題に留まらず、社会や経済全体に波及する世界的な潮流となっています。米国や中国をはじめとした各国ではAIの「国際競争」に勝ち抜くための政策が発表され、株式市場では米半導体大手エヌビディアの時価総額が7月に4兆ドル(約590兆円)を突破し世界初の大台を記録しました。総務省が24年に発表した「情報通信白書」によると、7割の日本企業が試用を含めて生成AIを活用し、検討中まで含めれば9割近くに高まるなど利活用の機運も高まっています。

そもそも昨今のAIブームでは、なぜDCの整備が話題となっているのでしょうか。生成AIが強みとする「推論」という演算処理には、数万枚規模の画像処理半導体(GPU)を並列に稼働させることが必要とされています。この能力を確保するためには、GPUを収容するサーバーラックや冷却装置などを大量に備えたDCを設置することが欠かせません。米マッキンゼーは、2030年までに世界で延べ5.2兆ドルのDC設備投資が必要と試算しています。日本のDC市場規模も拡大傾向にあり、富士キメラ総研(東京都中央区)は29年に23年比47.4%増の約5兆4000億円に達すると見通しています。

これまでのAIブームは、画像や音声を認識したり最適解を計算したりするアルゴリズムやソフトウェア開発を通じて精度や使い勝手を高めてきました。しかしながら、現在の第4次AIブームはハードウェアなどのインフラ整備を通じてAIの能力を高めています。こうした背景が、世界中に未曾有のDC建設ラッシュを生み出しています。

急速に整備が進む日本のDC
国内の通信大手は首都圏や関西圏でDCの新設に動き始めています。

ソフトバンクは、シャープの堺工場(堺市堺区)跡地の敷地面積全体の6割を約1000億円で取得し、2026年の稼働を目指してDC整備に取組んでいます。DCの能力を示す受電容量は約15万キロワット規模で、将来的に25万キロワット超の規模まで拡大させる見通しです。KDDIは6月、東京都多摩市に5棟目となるDC「テレハウス・トーキョー・タマ5―2nd」を新設し、多摩地区で総受電容量約10万キロワットのDC群を持つことになりました。建屋は地上8階、地下1階建てで、約1900台のサーバーラックを収容することができます。高電力なGPUサーバーに求められる水冷方式に対応し、2027年秋の稼働を目指しています。同社は24年から4年間で1000億円を投じて大規模な計算基盤を整備する計画です。NTT傘下のNTTデータグループは27年度に大阪府茨木市、28年度に栃木市で大規模DCを稼働させることを目指しています。

富士キメラ総研は国内のDC延べ床面積は、29年に23年比41.5%増の約616万平方メートルになると見込んでいます。同社は「新設は26年から28年ごろがピークと予想される。関東や関西が伸びをけん引するとみられる」としています。

成長市場のDCに異業種から参入する事例も相次いでいます。大手ゼネコンの大林組は、24年に都市型DC事業に参入するとして新会社を設立しました。空室を抱えるビルを改修したり、建て替えたりして整備するDCで、東京を中心に総額1000億円を投じて31年度までに40万キロワット級のDC群を構築させる計画です。東京電力ホールディングス(HD)もDC事業に参入する方針を示すなど、成長戦略としてDC事業が注目されています。

一方でDCを地方に分散させることでデジタルインフラを強靭化する動きも見え始めています。経済産業省は国内DCの8割が首都圏と関西圏に集中しているとして、26年度の概算要求で、地方設置に必要な電力や通信インフラ整備の費用の補助に1億円の予算を新たに計上しました。同省は、長期的に10数か所のDCを地方に分散させて整備することを目指すとのことです。また、総務省も金額を明示しない「事項要求」として26年度の概算要求にDCの地方分散を盛り込みました。実際に、ソフトバンクは北海道苫小牧市で大規模DCを26年度に開業させる計画を進めています。将来的に敷地面積70万平方メートル、受電容量30万キロワット超の国内最大規模のDCに拡大させる見通しです。災害リスクの分散と地域経済の底上げとしてDC分散が寄与するかが注目されます。

周辺産業にも旺盛な需要が波及
DCの相次ぐ建設ラッシュは、冷却装置や電源設備、防災・セキュリティなど周辺産業にも波及し、関連する市場全体を押し上げています。

富士電機は神戸工場(神戸市西区)に数十億円を投資し、配電盤や無停電電源装置(UPS)などの生産能力を50%拡大する方針です。同社は、同製品をはじめとした受変電設備や電源装置の受注高は26年度に23年度比2倍になると見込んでおり、生産拡大を決めたとのことです。

パナソニックは6月、DC向け冷却ポンプ市場に参入したと発表しました。開発した製品は、競合製品と比べて約3倍長い約3万時間の寿命と、容積ベースで競合比約5%小さいサイズが特徴です。35年ごろまでに累計約500万台の出荷を目指し、滋賀県彦根市内の工場に新棟を整備して生産能力を向上させる計画です。

タイガー魔法瓶(大阪府門真市)は1月、DCの建材などでの活用を見込んで、魔法瓶の技術を応用した「ステンレス密封真空断熱パネル技術」を開発しました。ステンレス箔を使った真空断熱材で、不燃性を持ち、高い断熱性を長期間維持する特徴を持っています。27年の製品化を目指し、改良や大型化を進める方針です。

能見防災は4月、DCや半導体工場向けに超高感度煙感知システムを発売しました。見やすさとセンシング性能、ネットワーク性能を高め、0.0001%の微小な煙も感知できます。警備大手のセコムは7月、DC向けの警備システムを強みとするシンガポールのアブテルを完全子会社化すると発表。厳格なセキュリティ体制が求められるDCの警備需要に対応する構えです。

日本政策投資銀行が8月に発表した2025年度設備投資計画調査では、大企業(資本金10億円以上)の25年度国内投資計画額は脱炭素に加えてDC向け投資が寄与して14.3%増を見込む結果となりました。また、日刊工業新聞社が実施した研究開発(R&D)アンケートでは、力を入れている分野(複数回答)として「ICT・エレクトロニクス」が24年度の4位から2位に浮上しました。旺盛なDC建設ラッシュは、関連する市場や技術開発に追い風となっています。

生成AIの普及を背景としたAIブームは一過性の熱狂に見える側面もあります。しかし、数年単位の目線ではAIの演算資源を支えるためのDC需要が供給を大きく上回る構図は変わらないでしょう。今後は災害リスクや地域経済活性化を目指したDCの地方分散や、DCの性能向上に向けた関連製品や技術開発の動向が焦点となりそうです。世界的に加速するDC整備の波を、日本や国内企業が成長するための追い風とできるでしょうか―その成否が次の競争力を決める鍵となりそうです。

[日刊工業新聞社]