情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
やがて1万円札が消える日が来る? 欧米でもアジアでも脱・高額紙幣、キャッシュレス化が進む
アメリカでは20ドルが中心、100ドルや50ドルは珍しい
アメリカを旅行したとき、買い物で100ドル札を出したら、店員がその札を宙にかざして見た、あるいは偽札識別ペンでチェックされた。そんな経験はありませんか? 帰国後に残った100ドル札を円に替えてもらおうと銀行に持っていくと、偽札識別機で検査するので数日預からせてくださいと言われるのは、もう珍しいことではなくなりました。
ドル紙幣は、その総発行量の3分の2以上がアメリカ国外で流通しているとも言われ、脱税などの金融犯罪、麻薬組織の資金、あるいは汚職やマネーロンダリングなどに高額のドル紙幣が使われるのは、TVドラマや映画だけの話ではないようです。
また偽札が出回ることも多く、小売店では100ドル札を出されると偽札ではないかチェックするのが普通になっています。場合によっては、100ドル、50ドル札は受けとらないと言われることさえあります。観光地などは別ですが、アメリカの日常生活では20ドル札が一番多く使われ、100ドルや50ドル札を見ることは多くありません。
ドル紙幣に限った話ではありません。イギリスの犯罪組織局が「500ユーロ紙幣の90%以上が犯罪組織の手中にある」と警告したし(イギリスはユーロに参加していませんが)、インドでは2016年に1000ルピーと500ルピー札を廃止すると宣言してパニックになったり、欧米もアジアも高額紙幣と犯罪を切り離そうと苦心しています。欧州中央銀行(ECB)も、2018年末までに500ユーロ紙幣の発効を停止することを正式に決定しています。
日本国内だけを眺めていると気付きませんが、世界は確実に脱・高額紙幣、そしてキャッシュレス化へと進んでいます。その波は、徐々に日本へも押し寄せています。
5〜7年ほどかけて1万円札と5千円札を廃止すべきとの提言も
日本には「いつもニコニコ現金払い」なんて言葉があるように、昔から日本人は現金で支払うことを好みます。クレジットカードもある程度は普及しているし、自動振替・引き落としも普通ですが、アメリカのようにタバコ一箱買うのもクレジットカードというほどではありません。また、デビットカードの普及率などは、欧米に遠く及びません。
保守的な日本人は、新しい技術やヴァーチャルなシステムには抵抗があり、しっかりと自分の手に握れる現金を信頼する。まだまだそういう傾向が強く感じられます。
しかし、ECBが500ユーロ札の発行停止を決め、アメリカではサマーズ元財務長官の「100ドル札を廃止すべき」という発言が議論を呼んでいます。となると、次に高額な紙幣の一つ1万円札にも注目が集まるわけで、ハーバード大学のロゴフ教授が「5〜7年ほどかけて1万円札と5千円札は廃止すべき」と提言して、日本国内でも話題になりました。
ロゴフ教授は、「現金をなくしても犯罪がなくなることはない。しかし、高額紙幣を廃止して犯罪が5%減るのなら、やはり廃止した方がいい」と主張しています。石川五右衛門の名セリフ「世に盗人の種は尽きまじ」ではありませんが、紙幣が消えても犯罪は起きるでしょう。仮想通過だって盗まれてしまったのですから。でも高額紙幣が犯罪に多く使われるという現状があり、世界が廃止に動いているのなら、1万円札だって危機です。
もっとも、銀行口座に給与が振込まれ、公共料金やスマホ代は自動引き落とし、1000円以上の買い物はクレジットカードやデビットカードで支払う。そんなアメリカンスタイルで暮らしている人なら、財布には数枚の1000円札、そして小銭、それで十分でしょう。
また“外圧”で動く?
訪日客の消費する8兆円が鍵か
観光立国を目指す日本は、政府目標として訪日客数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人とすることを決め、訪日客には2020年に国内で8兆円を消費してもらいたいと考えている。彼らの多くはキャッシュレスに慣れていて、現金主流の日本システムには不満も多い。その声が日本のキャッシュレス化を推進するのかもしれない。