設計をする時は母親のように、試験をする時は父親のように
【役員インタビューシリーズ】
インタビューイ:タキゲン製造株式会社 製品設計部 取締役 設計部長 瀬川志朗

1983年入社。仙台、東京で営業を担当したのち、川崎支店長、開発部として多くの製品を生み出した多彩なアイデアマン。2015年、取締役製品設計部長に就任。現在に至る。
あらゆるお客様の声を具現化し、新製品を生み出すところは、営業マンの喜びをつくる舞台裏
長年の営業経験で磨いたセンスは開発の場でも息づく。「設計マンのお客さんはタキゲンの営業マン」と語る瀬川部長には、その先で喜ぶお客様の顔が見えている。その経験を伝えることで、誰よりも後輩たちの成長を願っている。「スピード」と「絵を描く」を武器にせよと説く。
設計をする時は母親のように、試験をする時は父親のように
新人時代のエピソードや、忘れられない仕事の出来事は?
瀬川 入社1年目は仙台支店でした。最初は営業で山形を担当しました。私もまだ初々しかったのでしょう、春分の日に営業にまわると、1軒目の会社で「あんた北海道から出てきたの? こんな山形担当で大変だね」って、受入担当の方におはぎをいただきました。2軒目でも社長さんのお母さんに「ほれ、おはぎ食べていきなさい」って。それも全部食べて、次のお客様に行ったら、そこでもおはぎが(笑)。昼前に4件目のお客様へ行くと、「今日社長がいないから社長の弁当を食べていきなさい」って言われて…。新入社員の私には、すごく嬉しかったのを覚えています。東北は心の温かい人が多いところでした。
その後、東京、長野と営業マンを続け、入社8年目、30歳で開発の特装チームに呼ばれました。カタログに載っている特装製品のうち、半分ぐらいをチーム一丸となって、2年間くらいでつくったと思います。
その中でワンタッチハンドルキャッチFA-810-C-2をつくりました。当時の厳しい上司に叱られながら、外観デザインのフォルムが美しい製品を初めて本格的に設計しました。当然、強度や耐久試験もやらなければなりません。1人で検査室にこもり、ガチャンガチャンと数十万回、手動で行いました。製品を設計して完成させるまでは、「美しく良い子になりなさい」と、母親の気持ちで設計しなければならない。しかし、世の中に出る前には、「おまえは強いんだ」と、父親の気持ちで厳しく試験をしなければならないということを、部下に伝えています。どちらも製品に愛情を注ぐことが大切なんです。
それらの製品をつくっていただいている協力工場さんと一緒に高速道路を走ることがあったのですが、「あ、この車もそう。あ、この車も」と何度も言って。もう、うるさいったらありゃしない(笑)。あたりを見渡せば、自分が開発した製品を当然のように使用しているお客様の姿を見るのは、開発冥利に尽きる瞬間です。
新製品を生み出す部署はお客様の声を形にするところ
製品設計部とはどういう仕事をするのですか。
瀬川 文字通り新製品を生み出す場所です。全国の営業マンからの情報でお客様が必要とするものを形にする場所です。
まずお客様の要望をイラストにして、様々な情報を書き込みます。営業マンやお客様より了解が出たら図面を作成します。使いやすさ、安全性、コスト、デザイン性を頭に描きながら設計します。試作段階では3Dプリンターなどを用いて現実的な形にし、デザイン、作動などを確認します。ほとんどのメンバーがそれを一人でコツコツと積み重ねていくのですが、結構厳しい仕事です。
そこから国内外の協力工場さんとのやり取りがはじまります。最初の打合せが非常に大切です。「こんなんじゃ金型がもたねぇ」「こんな加工は無理」と工場から返され、「じゃあ、ここはこうすりゃいいんだろ!」と、いつも会話で図面のキャッチボールをしながら、製品は完成していきます。
現在の製品設計部の組織体制は?
瀬川 設計部は機能別に一課、二課があり、設計一課はカタログに載っている製品のメンテナンス的な仕事、図面の不備や特注品、3D化にも対応します。設計二課は世の中に無いものをつくり出す部署で、全国の支店やお客様からダイレクトに依頼がきます。
例えば、電気錠やフリーザー関連製品、精密機器や通信機器、医療機器などを運搬するために開発したstaffシリーズなどを手がけます。設計二課はその辺を自由に、とにかく製品を早く具現化して、お客様に「えっ、もう試作できたの?」と驚いていただけるような製品開発に取組んでいます。
製品設計部のタキゲン製造での位置付けは?
瀬川 舞台裏だと思います。例えば、ミュージカルの舞台があるとするなら、ステージ上はタキゲンの営業マンです。裏では衣装、照明、音楽とたくさんのスタッフがいますね、私たちはその裏方です。
もう1つの開発部隊で情報開発部がありますが、特装車、鉄道、自然エネルギー、自販機等、業界に特化し、自分たちで製品をつくり、自ら市場開拓をしています。私もかつては特装チームにいて、その業界に全力で力を注いできました。それ以外の仕事を製品設計部が請け負っています。表に出ることもなく、意外と孤独だったりして…。
モットーは営業マンが喜ぶ姿を見ることです。
「お客様からすごくいいと言われました」というその言葉で今までの苦労が報われます。
営業~お客様~エンドユーザー満足の声を連鎖させる
製品設計部のモットーは?
瀬川 まず各支店の営業マンに喜んでもらえる製品をつくり出すことです。その営業マンの向こう側にお客様がいるわけです。「便利になった。安くなった。良いデザインになった。」という営業マンの言葉で、今までの苦労が報われます。常々部下に、「どんなに難しくても、営業マンの『お客様が、すごく喜んでましたよ。』という声を大切に仕事しよう」と言っています。「タキゲンさん、いいね。これ!」と、お客様から褒められ、その装置をつくったメーカーさんもエンドユーザー様に「これ、すごくいい!」と言われるじゃないですか。
そのために大切なのは、お客様からの要望に対して、自分が頭に浮かべたものや、思うことをスピーディーに表現できるスキルを持つことです。下手でもいいから、まず絵を描いてみる。お客様からこういうものが欲しいと言われたら、「こんなのですか」と、ささっと絵を描いて、形を表現する。会話をしながら、裏から、横から、斜めから。パーツがこの位置にあって、こう動くとかね。百聞は一見にしかず、絵を描くとお互いに同じ共通の認識が成立します。これは開発だろうが営業だろうが同じです。絶対武器になります。言われたものをすぐ具現化できるような武器を持たないとライバル会社には勝てません。特に開発部は!
改めて、タキゲン製造という会社を表現すると?
瀬川 瀧源社長の考え方なのですが、企業内自由人が多いですね。各々の営業マンが今度お客様とこういう製品をつくりたいとか、開発が営業マンとタイアップして製品をつくり、このお客さんに売ろうよとか、自由にやっています。企業の中の一人ひとりが単なる歯車の1つではなく、常に自由な発想でビジネスをする。自由に飛び回るけども、全体としては確実に機能している。どこの部署でも上までいかないと物事が決まらないということはありません。それによってスピードも早い。そこがタキゲンの良いところです。
最後に本年度新しく役員になられましたが、お気持ちは?
瀬川 はい、今までは自分の仕事に夢中でしたが、これからは若い世代のことを考えなければと思いました。若い奴らが結婚して、子供が生まれ親になったり、10年後、20年後も安心して生活が送れる。協力工場の若い人たちも、どんどん製品づくりができる。そんな製品開発を手掛けていかなければという気持ちです。
【役員インタビューシリーズ】
・常務取締役 古岡 弘好【お客様が理想としている製品、イメージしている製品を、当社が〝翻訳〞し具体化することがポイント】
・取締役 田中 貢【付加価値の高い製品づくりを目指したい】
・取締役 武藤 憲一【業績が順調な時こそ一段高い品質への認識を】
・取締役 瀬川志朗【設計をする時は母親のように、試験をする時は父親のように】