
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
脱プラスチックへ、まずEUが動き出す 〜海を汚染し、生物に悪影響を与える使い捨て製品を禁止へ〜
クジラの胃袋から大量の袋、ウミガメの鼻にはフォークが
今年2月、スペイン南部の海岸に一頭のクジラが打ち上げられ、その胃袋から30kg近いプラスチック製の袋やロープ、網が出てきて、各分野の専門家たちを驚かせました。5月には、タイの海岸で死んだクジラの胃袋からも約80枚のポリ袋(8kg)が見つかっています。
その他にも、ウミガメの鼻にプラスチック製のフォークやストローが刺さっていた、死んだ海鳥の胃に細かなプラスチックがたくさん詰まっていたなど、世界中の海を漂う廃プラスチックによって海洋生物の生命を脅かされている事例がたくさん報告されています。
プラスチックは私たちの生活には欠かせないほど便利な物質ですが、その量があまりにも膨大になった結果、海洋汚染など激しい環境問題を生み出す要因になってきました。調査によると、海洋ごみの85%以上がプラスチック製品だといわれています。
現状を改善するため、まずEUが動き出しました。欧州委員会が5月下旬、使い捨てのプラスチック製品を禁止する規制案を発表したのです。これにはストローやフォーク、ナイフ、マドラー、綿棒の軸など、一度使えば捨てられてしまう製品が含まれています。同時に、PETボトルは2025年までにメーカーが90%を回収するよう義務づけるとしています。
規制案は今後、全加盟国と欧州議会で議論されますから、承認を経て実施されるまでには3〜4年かかるとみられています。しかし、これ以上は放置できないプラスチックごみを減らす取組みのスタートにはなりました。イギリスでは、すでにメイ首相がプラスチック製ストローを禁止する方針を打ち出し、アメリカでも大手ファストフードや飲食店が、使い捨てプラスチックをやめて紙のストローなどを提供する動きが出ています。
積極的に格差を縮めるアファーマティブ・アクションの導入も
プラスチックが大量に生産されるようになったのは戦後のことです。それでも1950年の生産量は世界全体で約200万トンでした。それが2015年には3億8,000万トンに増えていますから、65年で190倍になった計算です。この65年間に生産されたプラスチックの総量は、アメリカの大学グループの試算によると、約83億トン(製造時の添加剤を含めて)。そのうち63億トンが廃棄され、リサイクルに回されたのは9%だけ。残りの57億トンはごみとして焼却されたり、埋め立てられたりしています。もちろん海洋投棄もあったでしょう。
世界経済フォーラムは、いま世界の海を漂っているプラスチックごみの量は1億5,000万トンほどで、そこに毎年800万トンが追加されていると警鐘を鳴らしています。
ビニール袋などが大型の海洋生物に与える悪影響も深刻ですが、プラスチック製品が海を漂ううちに紫外線や波で破砕され、直径が5mm以下になったマイクロプラスチックは回収が難しく、しかも長期間にわたって海をさまようので、より問題視されています。
最近の研究によると、これらプラスチックごみは海鳥などのエサに似た臭いを放っているらしく、エサと間違って食べているのではないかと推測されています。廃プラスチックは、ごみとして海を汚染するだけでなく、そこに生きるさまざまな生物の命を脅かす危険な存在になってきました。このまま放置しておくと、2050年ごろには、海に生きるすべての魚の重さより、プラスチックごみの重量の方が大きくなるともいわれています。
使い捨てにされるストローやフォークなどを私たちが使わないことで、海に生きる動物たちが救われるかもしれない。いま欧米には、そう考えて行動する人が増えています。
プラを分解する菌も
日本や欧米で新しい発見が
数年前、日本の研究グループがPETを分解して栄養にする細菌を発見。すると、英米の研究チームがその細菌からプラスチックを分解する新しい酵素を発見した。プラスチックの歴史は浅く、細菌など微生物には新奇な存在で「食べる(分解する)」ことをしなかったが、徐々に慣れて食べる種も出てきている。