
情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。
レジリエンスで「折れない心」をつくる −ストレス社会に負けない柔軟な思考力を−
精神障害で請求された労災件数は1,456件で過去最多
レジリエンスという言葉を読んだり、聞いたりすることが多くなってきました。辞書を引くと「レジリエンス(resilience)」とは、「(不幸や困難などからの)回復力、立ち直る力、復活力」と出ています。
現代社会は、残念なことに職場にも学校にも家庭の中にもストレスの原因がたくさんあります。厚生労働省がおこなった調査によると、職場でストレスを感じる要因の第1位は「職場の人間関係」で、次いで「仕事の質・量」となっています。上司や同僚、部下との人間関係がうまくいかず、それが原因となって強いストレスを抱くようになる。そこに仕事のプレッシャーが加われば、時として心がポッキリと折れてしまうこともある。レジリエンスとは、心が折れそうになっても挫けず、柔軟に回復する能力のことをいいます。鋼鉄のような硬い力ではなく、ヤナギのように柔らかく、しなやかに復元する力です。
いまレジリエンスが注目されているのは、ストレス社会で挫折し、精神的に立ち直れなくなる人が増えているからです。2014年度、うつ病など精神障害を理由に請求された労災の件数は1,456件(認定は497件)で過去最多となりました。厚生労働省によれば、自殺やうつ病などによる経済的な損失は年間に約2兆7,000億円にのぼるとのことです。
もちろん企業にもダメージがあり、内閣府の試算では「従業員(男性30代後半、年収約600万円)が休職する場合の1人当たりに追加的にかかるコストは、422万円」となっています。そして、全業種の平均で55%以上の企業が、何らかの精神疾患を理由にした休職問題を抱えているというデータもあります。ストレス社会もここまできたかの感があります。
思考の柔軟性が立ち直りを早くする
仕事の失敗で落ち込む、クライアントの担当者が苦手なタイプでへこむ、そういう経験は誰にもあります。そのストレスを、誰もが何かで発散して立ち直ります。体に自然治癒力が備わっているように、心にも回復力(レジリエンス)があるのです。問題は、自然治癒力と同じように、レジリエンスにも強い弱いの個人差があることです。
だから周りを眺めると、およそストレスとは無縁のように見えるツワモノがいるかと思えば、逆にストレスを溜め込むばかりで、まったく発散できないタイプの人もいます。ある程度は生まれつきの性格ですから仕方ありませんが、改善することはできます。
レジリエンスの強い人に多く見られるのは、どんな状況でもネガティブな面ばかりではなく、ポジティブな面も見つけることです。不安を抱えながらも自分のおかれている状況に前向きに対応する、楽観視する、そういう思考の柔軟性が立ち直りを早くすることが、さまざまな研究によって分かってきています。
また状況分析などの思考だけでなく、さまざまな気晴らしもネガティブな感情を払拭するのに効果があると臨床実験によって科学的に解明されています。具体的には、各種のスポーツなど運動をする。ヨガや深呼吸、瞑想などで呼吸を整える。心の中にあるものを手紙や日記などに書いてみること(なるべく手書きで)。そして、好きな音楽を聴く、楽器を演奏するなどです。一説によれば、映画などを観て涙を流すことにも、マイナス感情を消す効果があるとか。
社会が人の集合体である限り、この先もストレスはなくならないでしょう。であれば、うまく感情をセルフコントロールしてレジリエンスを鍛えることが大切になります。
ストレスチェック制度の発足
労働者50名以上の事業所に義務づけ
「労働安全衛生法」の一部が改正され、2015年12月から労働者50名以上の事業所に、年一回、医師などにより従業員のストレスチェックをおこなうことが義務づけられた(50名以下の事業所は「努力義務」)。高ストレス者を早めに見つけ、メンタルヘルス不調を未然に防いで健康的な職場にすることが目的である。