情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。

スピード時代のキーワードは、「巧遅は拙速にしかず」

カタツムリ日頃から数字と理論で考える習慣が、速断を可能にする

複雑な組織と根回しが意思決定を遅らせる

スピード時代といわれて久しくなりますが、スピード感のある迅速な対応が日本社会(行政組織も含めて)は苦手のようで、先日も福島第一原発で現地調査をおこなった国際原子力機関(IAEA)が報告書を作成し、日本の政策決定の過程について、複雑な組織体系が緊急の意思決定の遅れを招く危険性があると指摘しました。

これは原発事故の事後処理に限った話ではなく、日本社会の一面を象徴するものではないでしょうか。組織が複雑に絡まり、そこに個々の力関係が働き、各方面への「根回し」が済まないと前に進まないという体質です。経営コンサルタントのジェームズ・スキナー氏も、複雑な組織と根回しが日本人の意思決定を遅らせていると再三指摘しています。

緊急の事態はもちろん、目まぐるしく変化するビジネスへの対応でも、「巧遅は拙速にしかず」が基本原則です。兵法書として名高い『孫子』にある言葉で、戦いにおいては完璧だが遅い戦術では勝てない、作戦に多少の難があっていいから早く動けと説いています。「先んずれば人を制す」「先手必勝」の精神でしょう。

実際に「巧遅より拙速」を実践しているのがトヨタで、生産方式の基本姿勢として8項目を掲げていますが、その一つに「改善は巧遅より拙速を尊ぶ」があります。そして作業のスピードではなく「着手」の早さが大事だとも訴えています。完璧な改善策を考えてから着手するのではなく、とにかく早く取りかかる、そして問題に対応しながら最善の改善策を講じていくという姿勢です。

着手すれば80%完成、80%の完成度は合格点

ベストセラー『超整理法』シリーズで知られる野口悠紀雄氏(早大教授、元大蔵官僚)も「8割原則」を提唱して同じようなことを言っています。仕事は、とにかく着手さえすれば80%は完成したようなもの。80%の完成度があれば合格点である、と。

身近な例でいうと、新聞記事なども速報性を求められるものは、とにかくスピード優先で作成されています。

何か大きな事故・事件が発生した場合、詳細が分からなくても記者は第一報を送ります。そして、新しい情報が入れば、次々に第二報、第三報という具合に編集デスクへ記事を送り、締め切りまでに集まった情報で紙面が構成されるのです。初めから全情報を盛り込んだ記事を書こうとすれば、間違いなく他社に遅れをとるでしょう。つまり情報発信競争で敗北を喫するわけです。

もちろん何から何まで「巧遅より拙速」がよいわけではありません。たとえば商品開発などは、多少時間がかかっても高い完成度を目指すべきですし、芸術の分野もスピードより質であることは自明の理です。もしフェルメールが巧遅より拙速の精神で絵を描いていたら、おそらく彼の作品が今日まで残ることはなかったでしょう。

では、ビジネスにおいてスピード感のある対応を可能にするためには何が必要でしょうか。実は、常日頃から自分の仕事について深く考え、精通しておくことです。必要な情報はきちんとインプットしておき、数字をもとにして論理的に思考する習慣をつけておく。いつ、誰と議論をしてもポイントを的確に押さえた発言ができる。それがベースにあるからこそ、「巧遅より拙速」で動いても80%以上の結果を出せるのです。

熟読が速読につながるように、日頃の熟考がイザというとき速断を産み出します。