情報の面白さを、ちょっと視点を変えて眺めてみると今までと違った側面が見えてきて、時にはビジネスにも役立つ発想がわいてきたりするものです。

多忙って、幸せだろうか?質を求めて世界に広がる「スロー運動」

スロー生活

超忙しいことは成功者の勲章なのか?

日本人は根が真面目で、とても勤勉な国民性ですから、昔から多忙であることを善しとする気質があります。確かに、閑古鳥が鳴くほど暇では、ビジネスでも生活でも困ったことになるでしょう。しかし、本当に多忙は善でしょうか。

手紙やメールを送るとき、多くの人は相手を気づかい「ご多忙のところ……」と書き、電話をすれば「お忙しい中、申し訳ありません」と言います。「小人閑居して不善をなす」という格言があるように、私たちは暇な人を好ましい存在とは思いません。だから相手を立派で有能な人物と思っている証拠のように、「お忙しい」を使ってしまうようです。これは、いまでは誰もが無意識に使うまでになっています。

ビジネスの世界では、多忙を成功の象徴のようにみなす傾向もあります。例えば、毎年、秋になるとビジネス雑誌が決まって手帳の特集を組みます。そこでは第一線で活躍するビジネスマンが、朝から晩までびっしり埋まったスケジュールを乗り切るために手帳をどう活用しているか、それが多少自慢気に紹介されています。

また雑誌が各界のカリスマ的リーダーを取り上げる記事では、彼らの分刻みのスケジュールを驚きとともに取り上げるのが定番です。まさにビジネスの世界では、多忙こそが成功者の勲章なのだと言わんばかりです。

一日に会議が6つ、メールが3,000通、スマホや携帯を3つも持ち、パソコンのモニターを睨みながら部下に指示をする、クライアントと打ち合わせをする。そんな超多忙なイメージから、あなたは幸福を感じることができるでしょうか。

スピードや量より、質の高い暮らし、ビジネスを目指す

スロー運動

スピードや量ではなく、仕事でもプライベートでも質の高さを求めよう。いわば多忙崇拝へのアンチテーゼとして、いま「スロー」というキーワードが注目されています。

1986年にローマのスペイン広場(映画『ローマの休日』でオードリーがアイスクリームを食べた広場)にアメリカのファストフード店ができた時、伝統的な食文化が失われることを危惧して提唱された「スローフード運動」が起源で、いまではスローライフ、スローシティ、スローファッション、スローエデュケーション、スロートラベル、スローテクノロジーなど、多くのスローが飛び交っています。

スロー運動は、暇を奨励する運動ではありません。スピードや効率ばかりを重視し、人が忙しさの中で身動きできなくなるような社会を見直し、自分の心に余裕をもって質の高い生き方をし、仕事ができる社会をつくっていこう、それが根底にある考え方です。

『ポジティブ病の国、アメリカ』の著者バーバラ・エーレンライク女史によると、本当に成功した人は、決して超多忙には見えず、むしろゆとりのある生き方をしているそうです。また、成功者は、早くからどうすれば忙しくならないかを学んでいるとも言います。

言葉遊びのようですが、「忙しい」とは「心を亡くす」と書きます。大量生産と超多忙のなかに埋没し、何が自分の目的なのかさえ見失ってしまう。それが「忙しい」です。

現実の社会は、まだまだビジネスもフードもテクノロジーも「スロー」にはならないでしょう。しかし、多忙に埋没せず、心にゆとりを持つよう工夫をしてバランスをとることが大切です。それができなければ、文字通り「忙殺」されてしまうだけなのですから。を控えて、明るく前向きに生きていく。それこそが大切なのだと、これらの実験データは教えているようです。